公募期間が延長|地方誘客促進に向けたインバウンド安全・安心対策推進事業とは?対象者・補助対象・活用方法を解説
訪日外国人旅行者の増加を背景に、観光地では外国人旅行者を受け入れるための環境整備が求められています。
一方で、地方の観光地では、多言語対応だけでなく、災害や事故などの緊急時に外国人旅行者を安全に受け入れるための体制整備や、外国人患者に対応できる医療機関の整備など、さまざまな課題があります。
こうした課題への対応を支援するのが、観光庁の「地方誘客促進に向けたインバウンド安全・安心対策推進事業」です。
本事業では、観光案内所や観光施設、宿泊施設等だけでなく、病院・診療所や地方公共団体なども対象となり、多言語対応や災害時の避難環境、外国人患者の受入環境などの整備を支援します。
また、当初2026年9月25日までとされていた公募期間が、2027年1月29日17時まで延長されました。
本コラムでは、この補助事業について、対象となる事業者・団体、補助対象となる取組、補助率・上限額などを整理するとともに、地方の観光・医療事業者などがどのような場面で活用を検討できるのかを解説します。
地方誘客促進に向けたインバウンド安全・安心対策推進事業とは?
地方誘客促進に向けたインバウンド安全・安心対策推進事業は、国土交通省 観光庁が実施する補助金事業です。
近年、訪日外国人旅行者の増加とともに、旅行者の目的地は都市部から全国各地へと広がりを見せています。しかし、各地で外国人旅行者を呼び込む(地方誘客を促進する)ためには、魅力的な観光コンテンツの整備だけでは不十分です。
近年多発する自然災害や、クマなどの野生動物の出没、急なケガや体調不良といった事態が発生した際、言葉の壁や不慣れな土地柄から外国人旅行者は大きな不安を抱くことになります。そのため、「万が一の事態が起きても安全・安心に過ごせる受入環境」が整っていることが、旅行者に選ばれる観光地となるための欠かせない前提条件となっています。
本補助金は、こうした「安全・安心な滞在環境の確立が、結果として持続可能な地方誘客につながる」という政策的背景のもと、以下のような環境整備に取り組む事業者や地方公共団体等を支援することを目的としています。
- 観光危機管理体制の構築(避難計画の策定や訓練など)
- 観光施設等の機能強化(非常用電源や災害用ドローン、熱中症対策設備、クマ情報などの多言語発信)
- 外国人患者の受入体制強化(医療機関でのキャッシュレス決済導入や多言語対応)
公募期間が大幅に延長|いつまで申請できる?
本事業は、予算や申請の状況に応じて公募期間の延長が行われており、事業者や自治体にとって「申請のチャンスが大幅に広がった」状態となっています。
公募期間の延長により、新たな申請締め切りは 令和9年(2027年)1月29日(金)17時必着 へと変更されました。
これにより、公募期間は約4ヶ月間大幅に延びることとなり、年度後半に向けた計画立案や設備導入にも対応しやすくなっています。
注意点
締め切りは延長されたものの、本事業は「予算がなくなり次第、予告なく募集を終了する」と定められています。申請を検討している場合は、締め切り間際まで待たず早めに準備を進めるのが安心です。
なぜ公募期間が延長された?
観光庁から「期間延長の具体的な理由」が公式に発表されているわけではありません。しかし、制度の仕組みや現在の観光施策の動向を踏まえると、以下のような背景や意図があると考えられます。
- 1. 予算枠にまだ余裕があり、継続支援が可能な状況
申請件数や予算執行の状況を見て、まだ交付可能な予算枠に残余があるため、より多くの事業者に活用してもらいたい意図が推測されます。 - 2. 「地方へのインバウンド誘客」をより強力に推進するため
国として「訪日外国人旅行者を全国各地へ拡散させる」ことを重点課題として掲げています。観光地だけでなく周辺の医療・避難施設など、広いエリアで受入環境を底上げするため、申請期間を長く確保して地域の取り組みを促している可能性があります。 - 3. 実は「対象となる事業者・施設」の幅が広い
本補助金は観光案内所や観光施設だけでなく、飲食店・商店などの事業所、さらには医療機関や地方公共団体まで非常に幅広い主体が対象となっています。制度の周知が進むにつれ「自社も活用できるのではないか」と気づく事業者が増えることを見越し、申請の機会を広く提供しているという見方もできます。
「まだ十分に活用しきれていない地域や事業者に対して、もう一段申請を促したい」という狙いがあるとも捉えられます。対象条件に当てはまる可能性のある事業者や自治体にとっては、絶好の活用機会と言えるでしょう。
どのような事業者・団体が対象?
本補助金の大きな特徴は、「対象となる事業者・団体の幅が非常に広い」点にあります。
インバウンド関連の補助金と聞くと、「ホテルや観光案内所といった一部の観光事業者だけが対象」と思われがちです。しかし本事業では、街の店舗や医療機関、地方自治体まで、訪日外国人旅行者が訪れる地域のさまざまな主体が活用できる仕組みになっています。
具体的にどのような事業者が対象となるのか、カテゴリーごとに見ていきましょう。
観光案内所・観光施設
地域で外国人旅行者を迎え入れる主要な施設が対象です。
- 対象施設の例:観光案内所、神社・寺院・教会、城跡・城郭、庭園・公園、動植物園、水族館、博物館・美術館、テーマパーク・テーマ施設など
- 活用イメージ:避難スペースの確保や非常用電源装置の導入、多言語での防災情報発信など
旅行者が集まる拠点として、災害時の避難機能や正確な情報発信体制を整える取り組みが支援されます。
宿泊施設・観光関連事業者
地域内の店舗や宿泊施設(旅館業法の許可を受けた事業者)をはじめ、観光に関連する幅広い事業者が含まれます。
- 対象事業者の例:観光地にある飲食店、土産物店、各種店舗・事業所、宿泊事業者(ホテル・旅館等)、交通事業者など
- 注意点:避難所機能の強化や多言語対応機能の強化など、申請するメニューによって宿泊・交通事業者が対象に含まれるか条件が異なるため、公募要領での確認が必要です。
地域の商業施設や立ち寄りスポットが災害時対応や多言語案内に取り組む際にも活用できます。
病院・診療所
旅行中の急な体調不良やケガに対応する医療機関も本補助金の主要な対象です。
- 対象施設の例:病院、一般診療所、歯科診療所(「外国人患者を受け入れる医療機関の情報を取りまとめたリスト」への登録または登録見込みが必要)
- 活用イメージ:医療費のキャッシュレス決済機器の導入、院内表示や問診票の多言語化など
観光事業者だけでなく、旅行者の命や健康を守る医療現場の環境整備もしっかりとカバーされています。
地方公共団体
地域全体の防災・観光体制を統括する都道府県や市区町村も申請対象となります。
- 対象の取り組み:地域における「観光危機管理計画」の策定、計画に基づく防災訓練の実施など
- 活用イメージ:自治体主導で地域防災計画に観光客の避難計画を組み込む、地域の危機管理体制を総合的に構築するなど
ハード面の整備だけでなく、ソフト面での安全対策・計画づくりを推進する自治体を強力に支援します。
その他の対象施設・事業者
上記のほかにも、「道の駅」や「みなとオアシス」など、地域内で訪日外国人旅行者の利用が見込まれる施設・事業者が広く含まれます。
「観光事業者だけ」の補助金ではない
本事業の目的は、観光地そのものだけでなく「地域全体としての受入・安全体制」を高めることです。
そのため、観光施設や宿泊施設はもちろんのこと、一般の飲食店・商店・医療機関・地方自治体まで幅広く網羅されています。「自社は観光専門の事業者ではないから」と諦めず、訪日外国人が訪れる可能性のある事業者や施設であれば、ぜひ申請対象に該当するかチェックしてみることをおすすめします。
何に使える?4つの支援メニューを整理
本補助金では、インバウンドの安全・安心対策を多角的に推進するため、4つの支援メニューが用意されています。
それぞれのメニューによって「対象となる設備・取組」や「補助対象者」「補助条件」が異なります。自社の取り組みや施設がどれに該当するか、比較表で全体像を確認してみましょう。
支援メニュー一覧表
| 補助メニュー | 主な補助対象・内容 | 主な対象事業者・団体 |
| (1) 災害時の観光施設等における避難所機能の強化 | ・非常用電源装置、スポットクーラー等の整備 ・災害用ドローン、非常用トイレの設置 ・避難スペースや備蓄倉庫等の増改築 | 観光案内所、観光施設、観光地の店舗・事業所、自治体など |
| (2) 観光客の安全・安心に資する観光施設等における多言語対応機能の強化 | ・クマ出没情報などの多言語発信環境整備 ・災害時の多言語案内板・デジタルサイネージ設置 ・宿泊・交通施設での多言語化対応 | 上記に加え、宿泊事業者(旅館業法の許可施設)や交通事業者も対象 |
| (3) 訪日外国人患者受入機能の強化 | ・医療費のキャッシュレス決済機器導入 ・院内表示、問診票、WEBサイト等の多言語化対応 | 病院、一般診療所、歯科診療所 (医療機関リスト登録・予定要件あり) |
| (4) 災害時等における観光危機管理の強化 | ・「観光危機管理計画」の新規策定・改定 ・計画に基づく防災訓練の実施など | 地方公共団体(都道府県・市区町村) |
補助率・補助上限額はいくら?
「実際にいくら補助されるのか」「どんな費用が対象になるのか」について具体例を交えて解説します。
補助率
原則として1/2以内
(引き上げ条件)
「(4) 災害時等における観光危機管理の強化(計画策定や訓練)」メニューにおいて、都道府県が申請する場合や、都道府県が計画策定済み(または策定予定)の市区町村が申請する場合は、補助率が 3分の2(2/3)以内 へ引き上げられます。
補助上限額
本事業の大きな特徴として、メニューによって上限額のルールが異なる点が挙げられます。
- (1)〜(3)(避難所機能、多言語対応、医療受入の強化)
補助上限額の設定はありません(※ただし全体の事業予算や事前の審査・計画内容により採択・交付決定額が決まります))。大規模な設備導入やシステム構築であっても、予算の範囲内であれば費用の1/2が補助対象となります。 - (4) 災害時等における観光危機管理の強化
1申請あたり 上限 500万円 と定められています。
対象となる経費
本補助金で認められる主な経費は、事業に直接必要な「設備購入費」や「施工費」「委託費」などです。
- 補助対象となる経費の例
- 設備・機器購入費(非常用発電機、スポットクーラー、災害用ドローン、キャッシュレス端末など)
- 工事費・施工費(避難スペースや備蓄倉庫、非常用トイレの増改築費用)
- 翻訳・制作委託費(多言語案内板、多言語サイネージ、多言語WEBサイトや問診票の作成・システム導入費)
- 策定・実施委託費(観光危機管理計画の策定委託、防災訓練の実施費用)
補助対象外となる経費
申請計画を立てる際は以下の経費が含まれていないか注意が必要です。
- 土地の取得に要する経費
- 単なる故障や老朽化に伴う代替更新・修理修繕費用(※明確な機能向上が伴わないもの)
- 消耗品費、保険料、SIMカードや通信費などのランニングコスト
- レンタル・リース契約に関する経費
- 事業実施後の設備維持・運営に係る人件費
基本的には「今回の事業のために直接契約・購入する、機能向上を伴う設備やシステム・工事等」が対象となります。
どんな取組に活用できる?具体例を紹介
本補助金は、ハード・ソフト問わず幅広い設備導入や環境整備に活用可能です。
ただし、最終的な採択や補助対象としての認可は、申請内容の精査や事前の計画内容によって判断されます。 そのため、「これを買えば必ず採択される」と断定するのではなく、あくまで「本補助金を活用して導入が検討できる取り組みの具体例」として参考にしてください。
具体的にどのような取り組みが考えられるのか、支援メニューごとの事例をご紹介します。
1. 避難所機能の強化(防災設備・避難環境の整備)
観光案内所や観光施設、店舗等が「災害時に旅行者を受け入れる避難拠点」としての機能を高めるための取り組みです。
- 非常用電源・発電機の導入
停電時でも照明や多言語案内機器、通信手段を確保するための非常用蓄電池や発電機の設置 - 暑さ・寒さ対策設備の導入
避難スペースでの熱中症予防を目的としたスポットクーラー、大型扇風機、暖房設備の配置 - 避難所関連の改築・増設
非常用トイレの増改築、備蓄物資を保管する倉庫の設置、外国人旅行者が一時避難できるスペースの改修 - 災害対応機器の備え付け
被災状況の確認や情報収集に活用する災害用ドローンの導入
2. 多言語対応機能の強化(情報発信・案内の多言語化)
自然災害だけでなく、野生動物の出没などのリスクに対しても、外国人旅行者が迅速かつ正確に情報を得られる環境を整える取り組みです。
- 災害・危険情報の多言語発信環境づくり
近年各地で問題となっている「クマの出没情報」などを、英語・中国語・韓国語等でリアルタイムに周知・注意喚起する看板やシステムの設置 - 多言語デジタルサイネージ・案内板の設置
平時は観光案内を行い、非常時には避難経路や災害情報を自動で多言語表示するデジタルサイネージの導入 - 宿泊施設・交通機関における避難誘導の多言語化
ホテル・旅館やバス・鉄道施設において、非常時の避難誘導マニュアルの作成や多言語音声案内システムの導入
3. 訪日外国人患者受入機能の強化(医療体制の整備)
医療機関(病院・診療所・歯科診療所)において、外国人患者が言語や決済の壁を感じずに受診できるようにする取り組みです。
- 医療費のキャッシュレス決済機器の導入
クレジットカード(VISA、Mastercard、JCB等)やQRコード決済端末を導入し、海外旅行保険や持ち合わせ現金に頼らないスムーズな会計環境を整備 - 院内表示・問診票・WEBサイトの多言語化
受付・診療科の案内表示、多言語に対応した問診票の作成、診療時間や対応言語をわかりやすく掲載したWEBサイトの構築
4. 観光危機管理の強化(自治体による計画策定・訓練)
地方公共団体が地域全体で外国人旅行者の安全を守る仕組みを整えるための取り組みです。
- 「観光危機管理計画」の新規策定・改定
地域の防災計画に外国人旅行者の避難誘導や情報発信方針を組み込むための計画策定や外部委託 - 訪日外国人旅行者を含めた防災訓練の実施
地域の観光事業者や医療機関、住民と連携し、外国人旅行者役を交えた避難誘導訓練や多言語連絡網のテスト実施
「観光客を呼ぶ」から「安心して受け入れられる地域を作る」へ
本補助金の真の狙いは、単にハードやソフトの整備費用を補助することではありません。「観光客を呼び込む(攻め)」施策とセットで、「安心して受け入れられる地域体制(守り)」をつくることにあります。
受入環境という基盤(インフラ)が強固になってはじめて、地方への持続可能な誘客が実現します。
- 旅行者側のメリット:言語の壁や災害・病気のリスクを感じることなく、地方の魅力を心から楽しめる
- 地域・事業者側のメリット:緊急時の混乱を未然に防ぎ、地域の安全性を高めることで「安心して旅行者を迎え入れられる」体制が整う
本補助金は、一時的な観光集客ではなく、「持続可能で質の高いインバウンド受け入れ地域」へと進化するための土台づくりを支援する制度と言えます。
地方でのインバウンド事業推進を検討している事業者や自治体にとって、地域の信頼性と魅力を根本から高めるための絶好の機会となるでしょう。
医療機関・自治体における活用メリット
本事業の大きな特徴は、観光施設だけでなく「医療機関」や「地方自治体」も明確な対象として位置づけられている点です。単に観光客を呼び込むだけでなく、地域全体の安全基盤(インフラ)を底上げするための活用メリットを整理します。
1. 医療機関(病院・診療所)の活用メリット
旅先で突然のケガや体調不良に見舞われる外国人旅行者は増加傾向にあります。受診時の「言語が通じない不安」や「持ち合わせ現金不足・無保険による未払いリスク」は、患者側だけでなく医療現場にとっても大きな負担です。
- キャッシュレス決済導入による未払いリスクの低減
クレジットカードや各種決済端末の導入費用が補助対象となるため、持ち合わせの現金がない外国人患者からの未払いや会計トラブルを未然に防げます。 - 多言語対応による現場負担の軽減
院内表示や問診票の多言語化、多言語Webサイトの構築により、受付や問診時のコミュニケーションをスムーズにし、医療スタッフの業務負担を軽減できます。
申請時の重要ポイント
医療機関(病院・一般診療所・歯科診療所)が本補助金を活用するには、観光庁および厚生労働省が指定する「外国人患者を受け入れる医療機関の情報を取りまとめたリスト」への登録(または年度内の登録見込み)が必須要件となります。
2. 地方自治体の活用メリット
地域全体で外国人旅行者の安全を守る体制づくり(ソフト面の対策)を強力にバックアップします。
- 財政負担を抑えた防災・危機管理計画の策定
「観光危機管理計画」の新規策定や改定費用(外部委託費等)が補助対象となります。 - 補助率の優遇措置(最大2/3)
都道府県が申請する場合や、都道府県の計画に基づき市区町村が申請する場合は、通常1/2の補助率が「2/3以内」に引き上げられるため、自庁の予算負担を抑えて地域防災体制を強化できます。 - 実効性の高い防災訓練の実施
計画策定にとどまらず、地域の観光事業者や医療機関、外国人旅行者役を交えた避難誘導訓練・多言語伝達テストの実施費用にも活用可能です。
観光客を受け入れる「拠点」となる施設と、安全・安心を支える「インフラ(医療・自治体)」が一体となって取り組むことで、地域全体の信頼性と観光価値を高めることができます。
まとめ|自社・地域の課題と照らし合わせて早めの検討を
外国人旅行者の需要が都市部から地方へと広がりを見せる今、「選ばれる観光地」「安心して滞在できる地域」づくりは急務と言えます。
公募期間は延長されたものの、予算上限に達し次第予告なく終了する規定となっているため、活用を検討する際はお早めの準備をおすすめします。ぜひ自社や地域の抱える受入上の課題と本補助金の対象経費を照らし合わせ、環境整備の強力な一手として本制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

