廃旅館の解体費を補助|観光庁「廃屋撤去・再生による地方温泉地等のまちづくり支援事業」を解説
観光庁による事務局の選定・決定が2026年4月に完了。
公募スケジュールは現時点で発表されていません。公募情報が公開され次第、こちらのコラムでお知らせします。
(更新日:2026年6月11日)
地方の温泉街では、かつて団体旅行向けに建てられた大型旅館が廃業し、そのまま廃墟化しているケースが少なくありません。
本来であれば、現在の旅行需要に合わせて小規模・高付加価値型の宿泊施設へ転換することで事業性が見込める立地であっても、「解体・減築費用が過大」という理由から再生が進まない――これは多くの温泉地が抱える共通課題です。
こうしたボトルネックに対応するため、観光庁は令和8年度(2026年度)から新たに 「廃屋撤去・再生による地方温泉地等のまちづくり支援事業」を創設しました。
本コラムでは、この新制度の概要と、どのような事業者・自治体にとってチャンスとなるのかを解説します。
なぜ今「廃旅館の撤去・再生」が必要なのか
現在の観光需要は、団体旅行中心から
- 個人旅行
- 少人数
- 長期滞在・高付加価値 へと大きく変化しています。
しかし、温泉街の中心地には過去の需要構造に合わせて建てられた大型・堅牢な旅館建築が残り、これが再投資の大きな障壁となってきました。
観光庁は、この「建物が大きすぎること自体が再生を妨げている」という構造問題に着目し、 解体・減築という初期段階から支援する新制度を打ち出した点が、本事業の最大の特徴です。
観光庁「廃屋撤去・再生による地方温泉地等のまちづくり支援事業」とは
地方の温泉街などの中心部に放置され、景観や安全性の悪化を招いている大規模な「廃旅館・廃屋」の撤去や減築(ダウンスケール)を国が直接後押しする支援事業です。
これまで多額の解体費用がネックとなって進まなかった温泉街の再編・再生を初期段階から支援し、新たな宿泊施設や観光施設等への再生、エリア全体の活性化につなげることを目的としています。
補助対象
本事業では、単なる建物の解体にとどまらず、「撤去後の再生」や「エリア全体の活性化」を見据えた取組が対象となります。
- ① 温泉街中心地における廃旅館等の撤去・減築
- かつて団体客向けだったような大規模・堅牢な廃旅館などの解体、あるいは規模を縮小するための減築費用。
- 条件:撤去・減築した跡地や建物が、最終的に宿泊施設等(高付加価値な宿など)として活用・再生されることが前提となります。
- ② 相乗効果を生む周辺取組(関連事業)
- 廃屋再生にあわせて行われる、まちのにぎわい創出や観光誘客に資する周辺の観光施設整備などの関連事業。
重要な要件:エリア再生計画の策定 個別の宿単体での申請ではなく、市町村等による「新たな旅館等を含んだエリア再生計画」の策定と、それに基づく連携事業であることが求められます。
補助率・事業スキーム
解体というコスト負担の大きい工程を正面から支援するため、手厚い補助率が設定されています。
- 予算額:10億円(令和8年度)
- 補助率:2/3
- 事業スキーム:間接補助事業
- 国(観光庁)から選定された「事務局」を通じて、実際の執行を担う事業者(自治体、DMO、宿泊事業者、民間デベロッパー等の連携体)へ補助金が交付される仕組みです。
- なお、本事業の全体統括を行う事務局(直接補助事業者)には、観光専門の人材サービスや地方創生事業を手掛ける株式会社ダイブが採択されています。
補助上限額
現時点では、1事業あたりの補助上限額や公募スケジュールは公表されていません。
なお、予算規模や事業内容(解体・減築という高額工程が対象)を踏まえると、 数千万円~数億円規模の事業を想定した制度となる可能性も考えられ、 小規模補助金とは異なる視点での事業設計が求められそうです。
今後の公募予定
現在の進捗状況
- 現在の状況:観光庁による事務局の選定・決定が4月9日に完了。
- 今後の事業者向け公募:事務局の立ち上げに伴い、2026年の春〜初夏(まもなく)にかけて、間接補助事業者(各地域の自治体・DMO・宿泊事業者など)を対象とした本公募の要領が発表され、受付が開始される見込みです。
- 事業期間:採択された事業の実施期間は、令和10年(2028年)3月末までを予定しています。
補助対象となる取組
本事業では、単なる建替えではなく、再生を前提とした撤去・減築が補助対象となります。
① 温泉街中心地における廃旅館等の撤去・減築
- 対象:廃旅館などの堅牢な建築物
- 条件:再生後は宿泊施設として供されること
ポイント:
- フル解体だけでなく「減築」も対象
- 小規模旅館・ブティックホテルへの転換を想定
② 相乗効果を生む周辺取組
①と併せて行う以下のような取組も対象となります。
- 周辺の廃屋撤去・減築
- 観光施設としての跡地活用
※撤去後は観光施設に供されることが条件です。
事業のポイント|宿単体ではなくエリア再生が前提
本事業では、市町村等による 「新たな旅館等を含んだエリア再生計画」の策定が要件とされています。
計画には、例えば以下の内容が求められます。
- 地域の将来像と観光のあり方
- 観光客数・滞在日数などの具体的指標
- 廃屋跡地の利用指針
- 減築後・再生後の施設活用方針
つまり、「1軒の宿を再生する」だけではなく、 「温泉街全体のにぎわいをどう取り戻すか」という視点が不可欠な制度です。
この補助金を活用できる事業者・自治体
特に相性が良いのは、次のようなケースです。
- 廃旅館を抱えているが、解体費がネックで動けなかった事業者
- 温泉街の中心部で小規模・高単価宿への再編を検討している地域
- 自治体・DMOと民間が連携し、面的な再生計画を描けるエリア
一方で、単独事業・短期収益のみを目的とした計画では、制度趣旨との整合が求められる点には注意が必要です。
宿泊事業者以外の向いている事業者は?
本事業は、補助対象が「宿泊施設の再生」に設定されているため、 一見すると宿泊事業者向けの制度に見えます。
しかし実際には、廃旅館の撤去・減築という高額かつ初期リスクの高い工程が含まれること、 さらにエリア再生計画の策定が要件とされていることから、 関係する事業者は宿泊事業者に限られません。
特に、次のような関係者が関わることで、事業として成立しやすくなる制度といえます。
- 温泉街の再生を政策課題としている自治体・DMO
- 温泉地中心部の不動産を扱い、再編・再生の事業設計ができる不動産事業者・デベロッパー
このような不動産・開発事業者は、直接補助を受ける主体というよりも、
- 廃旅館・廃屋の取得・権利調整
- 解体・減築を含めた再生スキームの構築
- 宿泊事業者や自治体と連携した事業化の支援
といった形で関与するケースが想定されます。
特に、事業性自体は見込めるものの、 「解体費がネックで誰も手を出せなかった物件」においては、 補助制度を前提に再生可能性を整理する役割として、 不動産・デベロッパーの関与余地は大きいといえるでしょう。
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まとめ
「廃屋撤去・再生による地方温泉地等のまちづくり支援事業」は、
- 解体・減築というこれまで支援されにくかった工程を正面から支援
- 宿泊施設再生を起点とした温泉街全体の再構築を促す
という点で、これまでにない性格の補助事業です。
廃旅館が負の遺産として残るのか、 次の観光需要を生む再生の起点になるのか。
2026年度以降、温泉地再生を検討する地域にとって、 早期の情報整理と計画づくりが重要になりそうです。


