2027度税制改正で中小企業の成長投資はどう変わる?「稼ぐ力」を後押しする税制を解説

2026年8月31日、経済産業省から「令和9年度税制改正に関する要望」が公表されました。

今回の要望の根底にあるのは、「2040年度に国内設備投資額250兆円を実現する」という強い数値目標です。「強い経済」の実現に向けて、単に令和8年度に創設された大型投資向け税制にとどまらず、中小企業の設備投資、賃上げ、事業承継、M&A、事業ポートフォリオ転換など、企業の成長そのものを後押しする税制の検討が掲げられています。

ここで重要なのは、今回の要望が単なる「バラマキ減税」の積み増しではない点です。経済産業省は、「①複数年にわたる投資の予見可能性向上」と「②租税特別措置の政策効果の点検・反映(日本版DOGEによる検証との連携)」を基本姿勢として明記しています。制度の効果を厳しく見極めながら、真に成長を目指す企業を支援する姿勢が示されているのです。

本コラムでは、公表された要望をもとに、中小企業の「稼ぐ力」を高める成長投資のポイントと、今後の企業経営への影響を分かりやすく解説します。

令和9年度税制改正のポイントは「中小企業の稼ぐ力」

令和9年度税制改正に関する経済産業省の要望では、中小企業の「稼ぐ力」の強化が重要なテーマとして掲げられています。

経済産業省は、労働供給制約が強まる中で、賃上げを単なる分配政策ではなく、生産性向上投資や企業の行動変容につながる「供給力強化政策」と位置付けています。

そのうえで、今後5年間を重点期間として、成長志向の中小企業を税制面から支援する方向性を示しています。

つまり、今後の税制は単に「設備を購入した企業に税制優遇を与える」という考え方だけではなく、

  • 生産性を高める
  • 設備投資を行う
  • 賃上げを行う
  • 新しい事業に取り組む
  • M&Aによって事業を成長させる
  • 事業ポートフォリオを転換する

といった、企業の成長行動そのものを後押しする方向へ広がっていく可能性があります。

すでに受付開始|大型投資に使える「大胆な投資促進税制」の現在地

「大胆な投資促進税制」は、令和8年度(2026年度)税制改正で創設され、2026年7月31日からすでに申請受付が始まっている現在進行形の制度です。そのため、今回の「令和9年度税制改正要望」のリストには名前が載っていません(※制度が終了・廃止されたわけではありません)。

令和9年度税制改正要望は、この「すでに動き出している大型投資向け制度」の土台の上に、さらに幅広く中小企業の成長投資を支える税制を積み増していく流れとして捉える必要があります。

【おさらい】大胆な投資促進税制の主な要件

  • 対象: 全業種の大規模・高付加価値な国内投資
  • 中小企業等の主な要件: 投資額5億円以上、投資利益率15%以上 など
  • 税制優遇: 即時償却 または 7%の税額控除 を選択可能

制度の詳細な対象要件や申請手続きについては、以下の解説コラムをご覧ください。
2026年度税制改正:「特定生産性向上設備等投資促進税制(大胆な投資促進税制)」の要件と手続き

中小企業経営強化税制はどうなる?

令和9年度税制改正で特に注目したいのが、中小企業経営強化税制です。

経済産業省は、中小企業経営強化税制について、成長志向の企業をさらに生み出し、中小企業の「稼ぐ力」を高めるため、メリハリをつけてインセンティブを強化することを要望しています。

中小企業経営強化税制は、設備投資を通じた生産性向上などを支援する税制です。

今後、制度の具体的な内容がどのように見直されるかは現時点では確定していません。

ただし、今回の要望から読み取れる重要なポイントは、「中小企業なら一律に設備投資を支援する」というよりも、成長につながる投資を行う企業をより強く支援する方向が示されていることです。

今後設備投資を検討する企業にとっては、単に「何を購入するか」だけではなく、その設備によって生産性がどのように向上するのか 売上や付加価値をどのように伸ばすのか 人手不足への対応につながるのか 賃上げにつなげられるのかといった投資の目的が、より重要になっていく可能性があります。

中小企業投資促進税制・中小企業軽減税率も「延長・見直し」の方向

中小企業の設備投資を考えるうえでは、中小企業投資促進税制、そして財務基盤を支える中小企業軽減税率も重要です。

現在の中小企業投資促進税制は、一定の中小企業者等が機械装置などを取得した場合に、特別償却または税額控除を認める制度です。現行制度の適用期限は2027年3月31日までとなっています。

令和9年度税制改正では、現状維持ではなく「攻めの成長投資を進める強い中小企業への変容」を促す観点から、中小企業軽減税率と中小企業投資促進税制の両方について、政策効果を高める観点から見直しを行ったうえで延長することが要望されています。

つまり、2027年度以降についても中小企業の設備投資・財務基盤を税制面から支援する方向が示されています。ただし、具体的な対象設備や要件、税制上のメリットについては、今後の税制改正の内容を確認する必要があります。

なお、中小企業経営強化税制や大胆な投資促進税制など、設備投資に使える複数の税制優遇のどれを選ぶべきか迷う場合は、以下の比較コラムも参考になります。

設備投資で使える税制優遇を比較|中小企業経営強化税制との違いも解説

賃上げ促進税制も「成長投資」と一体で考える

今回の令和9年度税制改正要望では、賃上げ促進税制の強化も重要なテーマです。

経済産業省は、今後5年間を重点期間と位置付け、積極的に賃上げを行う中小企業・小規模事業者を後押しするため、全雇用者の給与総額や賃上げ水準の要件などについて抜本的な見直し・強化を要望しています。

ここで重要なのは、賃上げと設備投資を別々の政策として考えていないことです。

企業が設備投資を行う → 生産性が向上する → 企業の収益力が高まる → 賃上げにつながる → さらに人材を確保しやすくなる

という好循環を税制によって促そうとしていると考えられます。

そのため、今後の企業経営では、「設備投資」「生産性向上」「賃上げ」を一体として考えることが重要になりそうです。

「事業ポートフォリオ転換・強化促進税制」の創設も要望

令和9年度税制改正で、もう一つ注目したいのが、「事業ポートフォリオ転換・強化促進税制」の創設です。

経済産業省は、AIトランスフォーメーション(AX)やGX、技術革新、経済安全保障などによって事業環境が大きく変化していることを背景に、企業が事業ポートフォリオを強化する必要性を指摘しています。

そのうえで、成長投資を通じて「価値創造」事業を拡大する企業を後押しするため、新たな税制の創設を要望しています。

これは今後の税制を考えるうえで非常に重要な動きです。

従来の設備投資税制では、「新しい機械を導入する」といった個別の投資が中心となりがちでした。

しかし、事業ポートフォリオ転換という考え方では、「会社として今後どの事業を成長させるのか」という、より経営戦略に近い視点が重要になります。

例えば、

  • 既存事業から成長分野へ経営資源を移す
  • DX・AI関連事業へ展開する
  • GX関連事業へ進出する
  • 高付加価値製品へ事業を転換する
  • M&Aによって新たな事業領域を獲得する

といった経営判断と税制が結びついていく可能性があります。

事業承継・M&Aも税制改正の重要テーマ

令和9年度税制改正では、設備投資だけでなく、事業承継やM&Aも重要なテーマとなっています。

事業承継税制については、適用期限到来後のあり方について、世代交代の停滞や地域経済への影響だけでなく、制度の適用状況や課税の公平性なども踏まえ、多角的に検討したうえで令和9年度税制改正において結論を得ることとされています。

また、中小企業事業再編投資損失準備金、いわゆる中堅・中小グループ化税制についても、適用期限の延長や、M&Aの実態に即した手続きへの見直しが要望されています。

これは、今後の中小企業政策が、「既存事業を守る」だけではなく、「事業承継・M&Aを通じて企業を成長させる」という方向にも重点を置いていることを示しています。

日常実務に直結する主な見直しポイント

大型の新設税制だけでなく、中小企業経営者の日常的な実務判断に直結する見直しも要望に含まれています。

交際費課税の特例延長:中小企業の販路開拓・販売促進等に必要な交際費について、800万円まで全額損金算入を可能とする特例措置の適用期限の延長が要望されています。営業活動を積極化させたい中小企業にとっては、実利に直結するわかりやすい論点です。

減価償却資産の取得価額基準の見直し:減価償却資産取得時に、10万円未満の資産は取得時に全額損金算入、10万円以上20万円未満の資産は3年均等での損金算入が可能となっている現行基準について、足下の物価上昇等を踏まえた見直しが要望されています。なお、少額減価償却資産の特例(30万円未満)の基準額引き上げ(40万円へ)についても併せて議論が進められており、物価高騰に対応した全体的な基準見直しの一環として位置づけられています。設備投資や什器・備品の更新を検討している経営者には特に関係が深い論点といえます。

防災・減災や固定資産税の特例も拡充を要望

成長投資だけでなく、事業継続に必要な投資についても税制上の支援が検討されています。

例えば、中小企業防災・減災投資促進税制については、自然災害の頻発・激甚化を背景として、制度の拡充等が要望されています。

また、賃上げを行う中小企業を対象とした設備投資に伴う固定資産税の軽減措置についても、賃上げ水準の要件見直しや、中小企業の研究開発投資を後押しするための拡充が要望されています。

そのため、今後の税制を考える際には、

  • 成長のための設備投資
  • 生産性向上投資
  • 研究開発投資
  • GX・DX投資
  • 防災・減災投資
  • 人材への投資

など、企業が行うさまざまな投資を税制と組み合わせて考えることが重要になります。

「日本版DOGE」との対比から見る税制改正要望の位置づけ

同時期に進む「日本版DOGE(租税特別措置・補助金見直し担当室)」の動きを押さえておくと、今回の税制改正要望の位置づけがより明確になります。

行政事業の無駄削減を目指す「日本版DOGE」の成果は限定的

政府は2025年11月、企業向け税制優遇や補助金の無駄を見直す専門組織(通称:日本版DOGE)を設置し、見直しを進めてきました。しかし、各省庁が公表した約120項目のうち明確な廃止方針が示されたのは1件にとどまり、制度の大幅な縮小には至っていません。

税制優遇は「拡大傾向」継続。活用しないリスクが高まる

「無駄を削る」動きが進まない一方で、経済産業省の令和9年度要望は制度の創設や拡充・強化が中心です。

この対比から見えるのは、税制優優遇措置が今後も総じて拡大・維持されるという傾向です。成長投資を検討する企業にとっては、こうした支援制度を「使わない」こと自体がコストや機会損失になり得る時代に入っているといえます。

補助金と税制は「どちらを使うか」ではなく組み合わせて考える

企業が設備投資を検討する場合、「補助金を使えるか」「税制優遇を使えるか」と別々に考えるのではなく、投資計画全体から検討することが重要です。

例えば、新しい設備を導入するという投資であっても、

  • 補助金の対象になるか
  • 中小企業経営強化税制の対象になるか
  • 中小企業投資促進税制の対象になるか
  • 大規模投資であれば大胆な投資促進税制の対象になるか
  • 賃上げ促進税制と組み合わせられるか
  • GX・DXなど別の政策目的と結び付けられるか

によって、活用できる制度が変わります

ただし、補助金と税制では制度の目的や対象経費、申請・認定のタイミングなどが異なるため、「補助金が使えるから税制も使える」と単純に判断することはできません。実際に投資を行う場合は、それぞれの制度の最新要件を確認する必要があります。

さらに、大型の成長投資では税制・補助金だけでなく、融資面での後押しも重要になります。政府は現在、M&Aや大規模設備投資を対象に、信用保証の限度額を現行の2.8億円から10億円規模へ引き上げる新制度の検討を進めています。

なぜ政府は中小企業に10億円規模の保証枠を検討?M&A・設備投資を促す「成長投資」政策を解説

中小企業は今から何を準備すべきか

令和9年度税制改正の内容はまだ確定していません。

しかし、今後成長投資を予定している企業は、制度が確定してから検討するのではなく、今の段階から投資計画を整理しておくことが重要です。

特に、以下のような準備をしておけば、今後制度の詳細が決まった際にも、対応しやすくなります。

1.今後3~5年の成長戦略を整理するどの事業を伸ばすのか、どの市場へ進出するのかを明確にします。

2.必要な設備投資を整理する:設備、システム、建物、研究開発など、成長に必要な投資を洗い出します。

3.投資による効果を数値化する:売上高、付加価値、生産性、人員、利益率など、投資によって何が変わるのかを整理します。

4.賃上げや人材確保との関係を考える:設備投資による生産性向上を、賃上げや人材確保につなげられるか検討します。

5.補助金と税制を同時に確認する:補助金だけ、税制だけを見るのではなく、投資全体について利用可能な制度を確認します。

令和9年度税制改正から見える「これからの中小企業政策」

今回の税制改正要望を見ていると、今後の中小企業政策の方向性が見えてきます。キーワードは、「守る」から「稼ぐ」へです。

もちろん、事業承継や防災・減災など、企業を守るための税制も引き続き重要です。

一方で、政策の中心には、成長投資 生産性向上 賃上げ 事業承継 M&A GX・DX 研究開発 国内投資といったテーマが並んでいます。

つまり、税制を単なる「節税」の手段として見るのではなく、企業の成長戦略を実行するための政策手段として捉えることが重要になってきています。

まとめ|令和9年度税制改正は「成長投資」をどう支援するかがポイント

今回の税制改正要望から見えてくるのは、2040年度の設備投資額250兆円目標に向けた、中小企業の「稼ぐ力」を直接後押しする強いメッセージです。

今回の改正要望の注目ポイント

分野主な見直し・要望内容
設備投資・成長・中小企業経営強化税制の拡充
・中小企業投資促進税制/軽減税率の見直し・延長
構造改革・M&A・事業ポートフォリオ転換・強化促進税制の創設
・事業承継税制の抜本的見直し
・グループ化(M&A)税制の延長・見直し
経営基盤・実務・賃上げ促進税制の拡充(投資と一体での支援)
・交際費特例の延長、少額減価償却資産の基準見直し

すでに申請受付が始まっている「大胆な投資促進税制」も含め、政策の方向性は明確に「成長投資の支援」へとシフトしています。

今後は「どんな税制が使えるか」から考えるのではなく、「自社がどう成長したいか」の投資計画を先に立てることが重要です。そのうえで、税制優遇・補助金・融資(10億円規模の保証枠検討など)を組み合わせ、経営戦略を実行していきましょう。