パーシャルスピンオフ税制の2026年改正とは?日本企業の事業ポートフォリオ改革を徹底解説

日本企業の経営をめぐって、「事業ポートフォリオ改革」という言葉が注目されています。複数の事業について、将来性や収益性、資本効率を見直し、成長分野に経営資源を集中させる取り組みです。

これまでも、不採算事業からの撤退や、成長性の低い事業の売却は経営課題とされてきました。しかし欧米企業と比べると、日本企業では事業の売却や分離、入れ替えが十分に進んでいないとの指摘があります。

そうした中で改めて注目されているのが、パーシャルスピンオフ税制です。この税制は2023年度に創設され、2026年度(令和8年度)の税制改正で適用要件が見直されたうえで、恒久的な措置となりました。ソニーグループやレゾナック・ホールディングスなど、大企業による事業分離の事例も出ています。

今回は、制度の仕組みと改正のポイントを確認しながら、なぜ政府が企業の事業再編を後押ししているのか、そしてこの流れが中小企業の経営やM&A、成長投資にどうつながるのかを考えます。

※本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務上の助言ではありません。具体的な検討にあたっては、専門家にご相談ください。

日本企業で「事業切り離し(カーブアウト)」が進む背景

企業が成長を続けるには、売上を増やすだけでなく、「どの事業に経営資源を投入するか」を選ぶ必要があります。

たとえば、成長性の高い事業、安定した収益を生む事業、成長性が低下した事業、将来の投資負担が大きい事業を同時に抱えている企業を考えてみます。すべての事業に資金や人材を均等に振り向けることが、企業価値の向上につながるとは限りません。

成長が期待できる事業には積極的に投資し、自社で持つ必要性が低くなった事業は売却・分離する。この考え方が事業ポートフォリオ改革です。

パーシャルスピンオフ税制とは?仕組みと基礎知識

事業ポートフォリオ改革の手法の一つが「スピンオフ」です。企業が特定の事業を切り出して独立した会社とし、その株式を親会社の株主に分配する手法をいいます。

たとえばA社が半導体事業、化学事業、金融事業を持っているとします。このうち化学事業を切り出してB社として独立させれば、A社は半導体事業などに集中し、B社は化学事業を独立した会社として経営できます。

従来の「スピンオフ」と「パーシャルスピンオフ」の違い

従来の「スピンオフ(完全スピンオフ)」は、親会社が分離後の会社の株式を100%株主に分配し、資本関係を完全に切断する手法です。

一方、「パーシャルスピンオフ」は、親会社が分離後の会社の株式を一部(20%未満など)保有し続ける手法を指します。完全に関係を断つのではなく、一定の資本関係を残しながら段階的に分離・独立を進められる点が大きな特徴です。

図解:スピンオフとパーシャルスピンオフの違い

1. 従来の「スピンオフ(完全分離)」
親会社
A社
資本関係 0%
(完全独立)
分離後の会社
B社
株式を100%親会社の株主に分配。資本関係を完全に切断する手法。
2. パーシャルスピンオフ(部分分離) 特例措置
親会社
A社
株式を一部保有
(20%未満など)
分離後の会社
B社
一定の資本関係を残しながら段階的に分離。税制特例(課税繰延)の対象となる。

なぜ税制上の特例(課税繰延)が必要なのか?

通常、事業分離や株式分配を行うと、親会社や株主に譲渡損益課税やみなし配当課税といった重い税負担が生じ、企業が事業再編をためらう原因となります。

こうした税負担を抑え、企業の事業再編を後押しするために設けられたのが「パーシャルスピンオフ税制(特例措置)」です。要件を満たすことで、株主のみなし配当課税を発生させず、譲渡原価の付け替え(課税繰延)とする特例が認められます。

制度の経緯は次のとおりです。

  • 2023年度: 1年間の時限措置として創設
  • 2024年度: スタートアップの創出を促す観点から改正
  • 2026年度: 適用要件を見直し、恒久的な措置に

政府は、税制面から企業が事業を組み替えやすい環境を整えることで、事業ポートフォリオ改革を強烈に促そうとしています。

パーシャルスピンオフ税制の主な適用要件

パーシャルスピンオフ税制の適用を受けるには、主に以下の要件を満たす必要があります。

  • 事業再編計画の認定: 産業競争力強化法に基づく事業再編計画の認定を受けていること
  • 残存株式割合の制限: 分離後に親会社が保有し続ける株式割合が一定以下(20%未満など)であること
  • 役員の派遣制限: 分離後の会社に対して、親会社が過半数の役員を占めないことなどの独立性要件
  • 企業価値向上への寄与: 単なるグループ内の整理ではなく、コア事業への集中や対象事業の成長につながる再編であること

誰でも無条件に使える制度ではないため、実務においては事前に計画要件や税務要件を慎重に精査することが不可欠となります。

ソニーやレゾナックに見るパーシャルスピンオフの活用事例

制度の活用イメージをつかむうえで参考になるのが、ソニーグループとレゾナック・ホールディングスの事例です。

ソニーグループは、金融事業(現:ソニーフィナンシャルグループ)についてパーシャルスピンオフ税制を適用して分離し、2025年10月に再上場を果たしました(親会社の持分比率は19.9%)。

また、レゾナック・ホールディングスも石油化学事業を切り出したクラサスケミカルについて同税制を適用し、2026年9月にパーシャルスピンオフを完了させています(分離後の持分比率は18.57%)。

これらの事例が示しているのは、スピンオフが単なる「子会社の整理」ではないということです。重要なのは、「自社が今後どの事業で成長するのか」を明確にし、そのために会社の構造そのものを変えることです。

これは、M&Aで新しい事業を買うこととは反対方向のように見えますが、同じ経営戦略の一部です。「何を買うか」だけでなく、「何を持たないか」も重要になっています。

2026年度税制改正の変更点|恒久化と対象拡充のポイント

2026年度税制改正により、パーシャルスピンオフ税制は時限措置から「恒久的な制度」へと改訂され、使い勝手が大幅に向上しました。

これまでの制度は「スタートアップ創出」を主眼とした要件設計となっており、大企業が既存のノンコア事業を切り出してコア事業へ集中するような、一般的な事業ポートフォリオ再編には活用しにくい課題がありました。

今回の改正における主なポイントは以下の2点です。

  • 対象の拡充(自社の企業価値向上全般へ)
    従来のスタートアップ創出中心から、コア事業への集中やノンコア事業の分離による「企業価値向上全般」へと対象が明確に広げられました。これに伴い、分離後に保有できる株式割合や、事業再編計画の認定要件が実務に即して緩和されています。
  • 制度の恒久化による中長期戦略への組み込み
    事業再編の検討から実行までは数年単位の期間を要します。恒久化されたことで、単なる一時的な節税策ではなく、中長期的な経営戦略の選択肢としてスピンオフを計画的に位置づけられるようになりました。

政府は単に手続きを簡略化するだけでなく、事業の「選択と集中」を通じた自律的な企業価値向上を一層強く促しています。

政府が企業の事業ポートフォリオ改革・資本効率改善を促す理由

背景にあるのは、企業の資本効率です。
多くの資産や資金を持っていても、十分な利益を生み出していなければ、資本が効率的に使われているとはいえません。売上規模は大きいものの収益性の低い事業を多く抱えていれば、会社全体の資本効率は下がります。

東京証券取引所が2023年に、資本コストや株価を意識した経営を上場企業に要請して以来、事業ごとの収益性や資本効率を問う動きは強まっています。それでも、スピンオフの活用は限られています。

2023年の制度創設以降、パーシャルスピンオフの実施や検討を公表した上場企業はソニーグループやレゾナック・ホールディングスなど数社(5社程度※)にとどまっており、制度が十分に浸透しているとは言いがたい状況です。※経済産業省「スピンオフの活用に関する手引」改訂資料等の公表データに基づく。

そこで、成長事業への投資、低収益事業からの撤退、不要な資産の売却、M&Aによる事業取得、子会社の売却、スピンオフによる事業分離などを組み合わせて、事業構造を見直すことが求められています。これは、日本企業が「規模を維持する経営」から「企業価値を高める経営」へ転換することを意味しています。

【比較】M&A・事業売却・スピンオフの違いと使い分け

M&Aは、他社の事業や会社を取得して新しい事業を取り込む方法で、「何を加えるか」の改革です。

事業売却は、自社が保有する事業を他社に売却する方法で、成長性や収益性、戦略上の相性を踏まえて「自社で持ち続けない」と判断するものです。

スピンオフは、事業を独立した会社として切り出す方法で、買い手を探さずに企業が主体的に進められます。独立した会社になることで、親会社とは異なる経営戦略や資本政策を取りやすくなります。

手法は異なりますが、根底にあるのは共通の問いです。限られた経営資源を、より成長が期待できる分野にどう振り向けるか。

スピンオフ・事業切り離しを行う際の注意点とデメリット

事業の分離(スピンオフ)は企業価値を高めるための強力な手法ですが、メリットばかりではありません。事業を独立させるプロセスにおいては、独立する事業側と親会社側の双方に特有の課題やリスクが存在します。

切り離される事業側(子会社)の3つのデメリット

独立して新たなスタートを切る子会社(分離事業)側には、主に以下の3つのデメリットや課題が生じます。

  1. グループ共有リソース(バックオフィス)の喪失とコスト増
    親会社時代に活用していた人事・経理・総務・ITシステムなどの共通基盤を利用できなくなるため、自前で新たに構築・運営するための費用や手間が増加します。
  2. ブランド力・信用力低下による資金調達や取引への影響
    大企業のグループ企業という看板から外れることで、一時的に対外的な信用力や資金調達力が低下し、既存の取引先との契約条件見直しや単独での借入コスト増加につながるリスクがあります。
  3. 事業間シナジーの断絶
    これまでグループ内で共有・連携していた技術、顧客基盤、ノウハウなどの相互作用(シナジー)が失われ、事業展開のスピードが一時的に鈍化する可能性があります。

親会社・グループ全体における注意点とリスク

一方、事業を切り離す親会社やグループ全体においても、慎重に検討すべき点があります。

  • 短期的・一時的な業績低下の懸念
    売上や利益を生み出していた事業をグループ外へ出すため、連結業績上の規模(売上高等)が減少します。
  • 株主・投資家に対する説得力のある成長ストーリーの提示
    単に「税制上の特例(課税繰延)があるから」という理由だけで分離を進めても、株主の理解は得られません。分離後の親会社と子会社の双方がどのように成長・企業価値向上を果たすのか、経営上の合理性を示した戦略を描く必要があります。

税制上の優遇措置を活用する場合であっても、分離後の双方が自立して成長できる体制を整えることが、スピンオフ成功の不可欠な要素となります。

中小企業における事業ポートフォリオ見直しとM&A・事業承継

パーシャルスピンオフ税制は、産業競争力強化法に基づく計画認定を前提とした、主に大企業向けの制度です。しかし、事業ポートフォリオを見直すという考え方は、中小企業にも当てはまります。

  • 本業と異なる事業を複数抱えている
  • 先代から引き継いだ事業を整理できていない
  • 成長事業に投資したいが、資金や人材が分散している
  • 事業承継を機に事業構成を見直したい
  • M&Aによって新しい事業を取得したい

こうした企業では、「何を残し、何を変えるのか」の判断が欠かせません。スピンオフという手法を選べない中小企業は、事業承継、M&A、事業譲渡、会社分割、設備投資などを組み合わせて事業構造を変えていくことになります。

このとき、手法ごとに税務上の取扱いが異なる点には注意が必要です。たとえば会社分割は一定の要件を満たすかどうかで課税関係が変わり、事業譲渡では譲渡益課税が生じます。また、許認可を要する事業では、事業を切り出したり承継したりする際の許認可の取扱いが、業種や手法によって異なります。

事業の切り出しを検討する段階から、税理士や行政書士などの専門家に相談しておくことが現実的です。

成長投資を後押しする国の補助金政策

パーシャルスピンオフ税制と中小企業向けの補助金は、制度としては別物です。しかし、政府の政策のメッセージには共通点があります。それは、現状維持ではなく、成長に向けた事業構造の見直しを後押しするという方向性です。

近年の補助金では、単なる設備更新よりも、生産性向上、新事業への進出、事業規模の拡大、M&Aや事業承継を通じた成長が重視される傾向にあります。

たとえば、

などです。

政策の重点が「中小企業を維持する」ことから「成長する企業を増やす」ことへ移りつつあるとすれば、大企業ではスピンオフや事業売却、中小企業ではM&Aや事業承継、設備投資というように、手法は違っても、企業に自社の事業構造を見直して経営資源を集中するよう促している点は共通しています。

まとめ|選択と集中で企業価値を高める事業ポートフォリオ経営へ

パーシャルスピンオフ税制の見直しは、単なる税制上のテクニックの話ではありません。背景には、企業が事業ポートフォリオを見直し、成長分野に経営資源を集中させるという政策の方向性があります。

これまでの成長戦略は、「何を始めるか」「何を増やすか」という視点が中心でした。これからは、「何をやめるのか」「何を売却するのか」「何を外部に任せるのか」「どの事業に資本を集中するのか」という視点も重要になります。長年続けてきた事業や、過去に大きな売上を生んだ事業であっても、将来の成長性や資本効率を考えれば、分離・売却したほうが企業全体にとってプラスになる場合があります。これは経営者にとって難しい判断です。

この考え方は大企業だけのものではありません。中小企業も、事業承継やM&A、設備投資、新事業への進出を検討する際に、「今ある事業をすべて維持する」ことを前提にせず、「将来どの事業を成長させるのか」を考える必要があります。

今後の税制改正や補助金政策を見るときも、「どの事業を支援するのか」だけでなく、「企業にどのような経営判断を促そうとしているのか」という視点を持つと、政策の方向性が見えやすくなります。

※本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務上の助言ではありません。具体的な検討にあたっては、専門家にご相談ください。

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