令和9年度AI関連予算で補助金はどう変わる?概算要求から読む中小企業AX支援の方向性
内閣府は2026年9月18日、令和9年度のAI関連予算について、各府省庁の概算要求を取りまとめた資料を公表しました。
今回の概算要求では、AIを単なるデジタルツールとして導入するだけでなく、企業活動や研究、行政、教育、ロボットなど幅広い分野でAIを活用する「AIトランスフォーメーション(AX)」が政策の大きなテーマとなっています。
令和9年度AI関連予算の概算要求額は2兆9,392億円+事項要求26件。(金額を示さない「事項要求」が26件含まれている)令和8年度予算額は5,027億円とされており、AI関連施策の規模が大きく拡大しています。
今回の資料からは、今後のAI政策がどの方向へ進もうとしているのかを読み取ることができます。
本コラムでは、令和9年度AI関連予算の概算要求から、特に中小企業の経営や今後の支援制度に関係しそうなポイントを整理します。
令和9年度のAI関連予算は2.9兆円規模へ拡大|概算要求の全体像
令和9年度のAI関連予算については、2兆9,392億円+事項要求26件が概算要求されています。令和8年度予算額は5,027億円です。
ここでいう「事項要求」とは、金額を示さず、内容のみを要求する形式のことです。今回の2兆9,392億円には事項要求の分は含まれておらず、別枠で26件が挙げられています。
ただし、この数字を単純に比較して「AI予算が約6倍になった」と理解するのは適切ではありません。理由は次のとおりです。
- 令和9年度は各府省庁の要求額で、令和8年度は成立した予算額であり、性質の異なる数字であること
- 事項要求は金額が示されておらず、最終的な規模が確定しないこと
- 事業費の一部など、AI関連予算額を抽出することが困難な施策は総額に含まれていないこと(資料の注記)
概算要求は、今後の予算編成の過程で査定を受けるのが通例です。現時点では「AI関連政策に非常に大きな予算規模が要求されている」という点を確認し、年末の政府予算案や各事業の公募内容を追っていくことが重要です。
なお、今回の施策は、「第Ⅱ期人工知能基本計画」や、骨太方針2026(日本成長戦略)での補助金ルール変更(いずれも令和8年7月閣議決定)に基づき、バーティカルAIやフィジカルAIの開発・活用を進めて、日本全体のAXを実現するという考え方で整理されています。
令和9年度AI政策を支える4つの基本方針
今回の資料では、AI関連施策を大きく4つの方針に整理しています。複数の方針に関係する施策は、最も関係が深い方針に分類されている点にご留意ください。
1.AI利活用の加速(AIを使う)
AI利活用を加速させ、社会課題の解決や新事業の創出につなげる方向です。
中でも中小企業に関係する施策として、「中小企業等を対象としたAX促進、業務効率化やDXの推進支援」が新規施策として挙げられており、経済産業省で約3,746億円が要求されています。
現時点では既存の支援策(デジタル化・AI導入補助金や省力化投資支援など)との具体的な関係性は明かされていません。
しかし、まったく新しい補助金制度が創設されるだけでなく、既存のデジタル化・AI導入補助金等に「AX枠」が新設されたり、設備投資補助金において「AI活用加点・補助率引き上げ」といった形で連携・統合される可能性も十分に考えられます。年末の政府予算案やその後の公募要領の公表に向けて、既存制度の動向も含めて注視が必要です。
このほか、気象分野のAI技術開発・利用基盤の整備(国土交通省、約305億円)、創薬・医療分野の研究開発プラットフォーム構築(厚生労働省、約153億円+事項要求)、政府・自治体でのAI利活用(ガバメントAI「源内」の整備・運用など、デジタル庁、事項要求)なども、この方針に含まれています。
2.AI開発力の強化(AIを創る)
AIそのものの研究開発や、AIを支える基盤の強化です。主な施策には次のようなものがあります。
- AI for Scienceによる科学研究の革新(文部科学省、約3,789億円)
- AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデルの開発(経済産業省、約8,964億円)
- AIロボティクスの中核拠点の創設(経済産業省、約1,333億円、新規)
- AX実現に向けたバーティカルAIの導入・開発利用の促進(内閣府、約1,009億円、新規)
- AIの信頼性を評価する基盤の研究開発・構築(総務省、約460億円)
- 生成AIの社会実装に向けた計算資源の高度化(GENIAC、経済産業省、事項要求)
資料に掲げられた施策の中で最も大きな金額は、マルチモーダル基盤モデルの約8,964億円です。また、「バーティカルAI」「フィジカルAI」という言葉が、政策上明確に掲げられている点も注目されます。
3.AIガバナンスと安全性の確保(AIの信頼性を高める)
AIを社会で広く利用するためには、安全性や信頼性の確保も必要になります。
資料では、政府全体のサイバーセキュリティ対策パッケージ(Project YATA-Shield、内閣官房、新規・事項要求)が挙げられています。また、金額の特定はできないものの、AISIにおける高性能AIの安全性・リスク評価等(内閣府、新規)も実施するとされています。
AIの普及と同時に、「AIを安全に利用するためにはどうするか」というガバナンスの問題も、政策課題として位置付けられています。
4.AI人材の育成・協働(AIと協働する)
教育、人材育成など、AIが社会に組み込まれていくことを前提とした環境整備です。
- 教職員向け研修や、学校現場における安全かつ主体的なAI活用環境の整備(文部科学省、約884億円)
- 実践的なAX実装人材を養成する大学・高等専門学校への支援(文部科学省、約35億円、新規)
- 「マナビDX」の整備、地域企業協働プログラムの提供、DXを推進する実践人材の育成(経済産業省、約28億円)
AIを導入するだけでなく、AIと人がどのように協働していくのかという段階に、政策の対象が広がっています。
中小企業の経営・補助金活用における5つの重要トレンド
① DXから「AX(AIトランスフォーメーション)」への進化
今回の概算要求を中小企業の視点から見ると、特に注目したいのが「AX」です。AXとは、AI Transformation、つまりAIを活用して企業活動そのものを変革していく考え方です。
これまでの中小企業のデジタル化政策は、次のように整理されます。 IT導入 → DX → 業務効率化・省力化
今回のAI関連施策は、ここに AI活用 → AX という方向性が加わったものと捉えることができます。
もちろん、今回の概算要求だけで今後の個別の支援制度の内容まで決まったわけではありません。しかし、中小企業を対象として「AX促進、業務効率化やDXの推進支援」が新規施策として明記されていることから、今後の中小企業支援策を見るうえで「AIをどのように事業の中に組み込むか」は重要な視点になると考えられます。
② 「生成AI」から「バーティカルAI・フィジカルAI」へ拡充
今回の資料でもう一つ注目したいのが、AIの対象領域が広がっていることです。
これまで企業のAI活用というと、文章作成、画像生成、情報検索、顧客対応など、いわゆる生成AIの活用が中心でした。一方、今回の概算要求では、バーティカルAIやフィジカルAIが明確に政策テーマとして挙げられています。
バーティカルAIは、特定の業界や業務領域に特化したAIを指す考え方です。また、フィジカルAIは、AIが現実世界の機器やロボットなどと結びついて動作する領域を指します。
資料では、AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデルの開発(約8,964億円)や、AIロボティクスの中核拠点の創設(約1,333億円、新規)、バーティカルAIの導入・開発利用の促進(約1,009億円、新規)などが示されています。
今後は「AIを使う」というだけでなく、AIをどの産業・業務に組み込むのかという視点がより重要になる可能性があります。
③ AI×省力化・設備投資・新事業の複合的な組み合わせ
中小企業にとっては、AIそのものよりも、AIを既存の設備投資や新事業とどう組み合わせるかが重要になるでしょう。
例えば次のような組み合わせが考えられます。
- AIによる業務効率化
- AIと省力化設備の組み合わせ
- AIを活用した生産ラインの高度化
- AIを組み込んだ新サービスの開発
- AIとロボットを組み合わせた省人化
- AIを活用したエネルギー管理
- AIを活用した新規事業
これらは必ずしも一つの「AI補助金」で支援されるとは限りません。
今後は、AI導入という切り口だけでなく、省力化、DX、設備投資、新事業進出、生産性向上など、それぞれの政策目的との関係を見ることが重要になります。
特に、AIを導入すること自体を目的にするのではなく、「AIを導入することで何が変わるのか」「売上や生産性、新事業にどうつながるのか」まで整理することが、支援制度を検討するうえで重要なポイントになると考えられます。
④ 「知識」から「実装」へ求められるAI人材の変化
AI政策では、技術だけでなく人材育成も重要なテーマになっています。
今回の概算要求では、教職員向け研修や学校現場におけるAI活用環境の整備に加えて、実践的なAX実装人材を養成する大学・高等専門学校への支援が新規施策として盛り込まれています。
また、経済産業省では「マナビDX」の整備や、地域企業と協働したプログラムの提供、DXを推進する実践人材の育成なども要求されています。
これは、AIについて知識を持つ人材だけではなく、実際の企業活動にAIを組み込める人材が必要になっていることを示しています。
中小企業にとっても、AIツールを導入するだけでなく、「誰が使うのか」「どの業務に使うのか」「導入後にどのように定着させるのか」という人材・運用面の課題が重要になっていくでしょう。
⑤ 企業のAI利用におけるセキュリティ・リスク管理
AIの普及を進める一方で、政府はAIの信頼性や安全性についても政策を進めようとしています。
今回の資料では、政府全体のサイバーセキュリティ対策や、AISIにおける高性能AIの安全性・リスク評価などが示されています。
AIを企業活動に取り入れる場合、
- 情報漏えい
- 個人情報
- 著作権
- 誤情報
- AIによる判断の妥当性
- サイバーセキュリティ
など、単なる「便利さ」以外の問題にも目を向ける必要があります。
なお、AIの安全性は政府だけでなく、開発企業自身も重要な経営課題として扱い始めています。
ロイターなどの報道によると、米Anthropicは新規株式公開に向けた目論見書で、高度なAIが停止への抵抗や情報の隠蔽といった挙動を示しうることなどを、リスク要因として投資家に開示したとされています(2026年9月29日報道、目論見書は非公開)。目論見書は想定されるリスクを網羅的に開示する性質の文書であり、同社は現行モデルのリスクを低いと評価しているとも伝えられています。
AIの開発側がリスクの評価と開示を重視する以上、利用する企業の側でも、情報管理や出力の確認といった運用のルールを整えておくことが欠かせません。
今後AIが企業活動に深く入り込むほど、AIを「導入できるか」だけでなく、「適切に管理しながら利用できるか」という視点も重要になりそうです。
令和9年度の支援制度に向けて中小企業が準備すべきこと
今回の資料はあくまで概算要求であり、今後の予算編成や制度設計によって内容が変わる可能性があります。概算要求の仕組みや成立までのスケジュールでも解説している通り、一般に概算要求が出された後は、年末に政府予算案が確定し、国会審議を経て成立したのち、具体的な補助金の公募要領が示される流れとなります。
したがって、現時点で「令和9年度にはこのAI補助金ができる」と断定することはできません今回の資料からは、今後の政策の方向性として、
AI × DX
AI × 省力化
AI × 設備投資
AI × 新事業
AI × ロボット
AI × 産業別サービス
といった組み合わせが重要になっていく可能性を読み取ることができます。
企業側としては、AIを導入することそのものを目的にするのではなく、「どの経営課題を解決するためにAIを使うのか」「AIによって生産性や業務プロセスがどう変わるのか」「新しい商品・サービスや事業につながるのか」といった点を整理しておくことが重要です。
まとめ|「単なるAI導入」から「AIによる事業変革」へ
令和9年度AI関連予算の概算要求からは、政府がAI政策を研究開発だけの問題として捉えているのではなく、企業、行政、教育、医療、科学、ロボットなど社会全体へ広げようとしていることが分かります。
特に中小企業に関係する部分では、AX、業務効率化、DXを一体的に進める施策が新規に盛り込まれています。
今後、AI関連の支援制度を検討する際には、「AIを導入する」という視点だけではなく、AIによって何を変えるのかという事業面から考えることが重要になりそうです。
令和9年度の予算編成や各省庁の制度設計、公募要領が明らかになるにつれて、AI・AXに関連する具体的な支援制度も見えてくると考えられます。今後は、AI関連施策だけを見るのではなく、省力化、DX、新事業進出、設備投資などの既存の中小企業支援策とAI政策がどのようにつながっていくのかにも注目する必要があります。
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