スタートアップ支援の最新動向:海外投資を呼び込む新ルールと主な施策
近年、日本のスタートアップ支援策は「脱・日本流」の方向に向かいつつあります。経済産業省は、スタートアップへの海外投資を呼び込むため、これまで日本特有とされてきた「IPO(新規株式公開)努力義務」の慣行を見直し、M&A(合併・買収)による投資回収も選択肢として認めるルール改定を進めています。これにより、海外のリスクマネーがより入りやすい環境を整備する狙いがあります。
日本のスタートアップを取り巻く動向と、支援策について解説します。
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主なスタートアップ振興策
エンジェル税制(経済産業省)
個人投資家(エンジェル投資家)がベンチャー企業に投資する際、一定の税優遇を受けられる制度。ベンチャー企業への投資を促進する狙いがあります。
公共調達の拡大(経済産業省)
国や自治体がスタートアップからのサービス・製品の調達を拡大することで、早期の売上確保や事業の信頼性向上を支援します。
株式型クラウドファンディングの拡充(金融庁)
調達できる金額を年間最大1億円から5億円未満に引上げ。
グローバル・スタートアップ拠点整備(内閣府)
東京都や大阪府などで、国内外の起業家を集める施設や支援プログラムを整備。ネットワーク形成や事業加速を後押しします。
グローバル市場改革(東証)
上場維持基準の見直しで成長を促します。
詳しくはこちらのコラム
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海外リスクマネーを呼び込む環境整備
日本のスタートアップ資金調達の現状
従来、日本ではスタートアップが資金調達を行う際、IPO(新規株式公開)で投資家がリターンを得ることが前提とされる慣行がありました。
- 投資家にとっては、投資した資金を回収する手段がIPOに限定されるため、上場の成功に依存するリスクが高い。
- 上場までの期間が長くなると、投資家は投資リスクを負いやすくなる。
このため、海外のリスクマネー(ベンチャーキャピタルなど)は「上場前の日本企業への投資は回収リスクが高い」と判断し、投資を控える傾向がありました。
ルール改定の内容
経済産業省は、スタートアップと投資家が契約を結ぶ際のガイドラインを改定し、以下の点を明確化しています。
- IPOだけが投資回収手段ではない
M&A(合併・買収)も正当な投資回収手段の選択肢 - 契約条件の国際標準化
ルールを国際標準に合わせ、リスクマネーを獲得できる環境整備
なぜ海外のリスクマネーが入りやすくなるか
投資回収の選択肢が広がる
- IPOに限定されず、M&Aや事業売却でも投資を回収できるため、海外VCにとって投資のリスクが低減する。
契約が国際標準に近づく
- 海外投資家が慣れた契約ルールで安心して投資できる
- 情報開示や権利保護の面でも透明性が向上
投資家心理の改善
- リターンが見込みやすく、契約上の不安も少ないため、海外資金が積極的に流入しやすくなる
海外VCが注目する「大学発スタートアップ」
最近では、アメリカの大手ベンチャーキャピタルが日本への投資を強化するというニュースも報じられました。
特に注目されているのは、日本の大学から生まれる技術シーズです。基礎研究のレベルは高いものの、事業化やビジネス展開に結びつける仕組みが十分に整っていないことが課題とされています。海外投資家から見れば、優れた技術が眠っているにもかかわらず市場化が進んでいない分野は大きなチャンスであり、日本側にとっても資金とノウハウを取り込む好機です。こうした動きは、政府が進めるスタートアップ支援策やグロース市場改革とも相まって、日本の大学発スタートアップの成長加速につながる可能性があります。
補助金制度の活用例
主な振興策に加え、補助金制度もスタートアップの成長を支援します。
スタートアップが使える主な補助金・助成金
例えば次のような制度があります。
- ものづくり補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- ローカル10,000プロジェクト
- 創業助成事業(東京都)
それぞれの補助金の解説はこちらからご覧ください
ディープテック・スタートアップ支援事業(令和8年度概算要求)
令和8年度の概算要求において、ディープテック・スタートアップ分野への支援が以下のように明記されています。
- ディープテック・スタートアップ分野における若手人材等の発掘・育成:20億円(15億円)
- ユニコーン創出支援事業:5.3億円(5億円)
- 医工連携グローバル展開事業:16億円(14億円)
- 次世代ヘルステック・スタートアップ育成支援事業:8.5億円(6億円)
- GX分野のディープテック・スタートアップ支援事業:185億円(300億円)
これらの事業は、ディープテック分野におけるスタートアップの技術開発や事業化を支援するものであり、スタートアップ支援策に該当します。
事業承継・M&A支援
また、近年の動きとして注目されるのが、事業承継やM&A支援の強化です。
令和8年度概算要求からも、事業承継・M&Aへの注力 が読み取れました。
スタートアップにとって「IPOだけが成長の出口」ではなく、M&Aによる事業売却や統合も投資回収の正当な手段と位置付けられつつあります。これは、投資家にとって選択肢を広げるだけでなく、スタートアップ自身が次の成長ステージへ進む契機にもなります。
事業承継・M&A補助金についてはこちらをご覧ください
まとめ
日本のスタートアップ支援策は、税制・公共調達・クラウドファンディング・拠点整備・市場ルール改革を軸に、多面的に構成されています。海外投資を呼び込みつつ、補助金制度やディープテック支援も活用することで、スタートアップは持続的な成長を加速できる環境が整いつつあると言えます。
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