行政書士法改正2026年施行へ|補助金申請支援のあり方が変わります

2025年6月「行政書士法の一部を改正する法律案」が成立しました(施行は2026年1月1日)。
今回の改正は、行政書士の業務範囲の拡大これまで総務省が「見解」として示してきた解釈や方針を、法的に明文化した点に大きな特徴があります。

施行日はいつ?改正の背景とは?

  • 衆議院可決:2025年5月30日
  • 参議院可決:2025年6月6日
  • 施行日:2026年1月1日

改正の背景には、次のような社会的課題があります。

  • デジタル化・制度複雑化により、専門的支援ニーズが高まったこと
  • 資格を持たない者による無責任な業務介入(いわゆる“闇コンサル”)の増加
  • 他士業・コンサル等との業際問題が現場で混乱を招いていたこと

改正のポイント

① 使命・職責の明文化

一 行政書士の使命
行政書士は、その業務を通じて、行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もって国民の権利利益の実現に資することを使命とするものとすること。 (第1条関係)
二 職責
1 行政書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならないものとすること。
2 行政書士は、その業務を行うに当たっては、デジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便の向上及び当該業務の改善進歩を図るよう努めなければならないものとすること。

(新第1条の2関係)

これまで明確にされていなかった行政書士の社会的責任について、法律上「国民の権利利益の実現に資する」という使命が明記されました。
専門職としての倫理観や公共性が問われる時代に突入したことを意味します。


② 特定行政書士の業務範囲の拡大

三 特定行政書士の業務範囲の拡大
特定行政書士が行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成することができる範囲について、行政書士が「作成した」官公署に提出する書類に係る許認可等に関するものから、行政書士が「作成することができる」官公署に提出する書類に係る許認可等に関するものに拡大すること。

(新第1条の4第1項第2号関係)

これまでは「事前に作成した書類に限って不服申立て代理ができる」とされていましたが、改正後は行政書士が「作成することができる」官公署に提出する書類 と改正され、自ら作成していなくても代理可能になります。

書類作成から関与していなくても、紛争対応ができるようになるので業務範囲が大幅に拡大されます

今回の法改正の一番のポイントと言えるのではないでしょうか。


③ 補助金申請などの「業務独占」

四 業務の制限規定の趣旨の明確化
行政書士又は行政書士法人でない者による業務の制限規定に、「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」の文言を加え、その趣旨を明確にすること。 (第19条第1項関係)

これまでグレーとされていた補助金や認可申請書類の作成について、報酬を得て行う場合は行政書士に限ると、明確に法律で定められました。

無資格者が請け負った場合、違法行為とみなされる可能性が高くなります

総務省見解としては行政書士の補助金申請書作成業務を独占業務とすると明言していました。

後に"これまでの「補助金申請書の作成は行政書士の独占業務である」という見解について"で触れます。


④ 名義貸し・無資格支援への罰則強化

五 両罰規定の整備
行政書士又は行政書士法人でない者による業務の制限違反及び名称の使用制限違反に対する罰則並びに行政書士法人による義務違反に対する罰則について、両罰規定を整備すること。 (第23条の3関係)

資格を持たない人が、SNSやセミナー、コンサル名目で実質的に書類を作成する行為を行った場合も、業として行っていれば違法となる可能性があるとされています。

名義貸しや、SNS・セミナー経由の「実質的な代理作成」に対して、罰則の可能性も強化されています。
実務においては「どこまでがアドバイスで、どこからが書類作成なのか」を慎重に判断する必要があります。


これまでの「補助金申請書の作成は行政書士の独占業務である」という見解について

総務省「グレーゾーン解消制度」回答(2022年2月16日)について

グレーゾーン解消制度は、事業者が「ある業務が独占業務にあたるかどうか」をあらかじめ所管官庁に確認できる制度です(産業競争力強化法に基づく)。

この制度において、ある事業者(コンサル業者)が「補助金の申請支援業務を資格なしでやってもいいか?」という趣旨の照会を行いました。

それに対して、総務省は次のように回答しました。

「補助金申請に係る書類のうち、官公署に提出する文書については、行政書士法第1条の2第1項の規定に該当するため、報酬を得て業として行うには行政書士である必要があります。」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000793871.pdf

この「グレーゾーン制度による回答」は、法改正そのものではないが、行政書士の補助金申請書作成業務を独占業務とする政府見解の明確な根拠です。

今回の行政書士法改正によって、こうした見解がより実務に浸透し、明文化によって支えられていく流れが強まりそうです。

今後考えられる影響は?

闇コンサルへのプレッシャー

法的根拠が整備されたことで、無資格者による補助金代行業務の取り締まりがしやすくなります
ただし、実際にどこまで摘発されるかは行政側の運用姿勢次第でもあります。

また、厳しい取り締まりがなくても不利になるケースが考えられます。

補助金申請で採択されたとします。

その際、無資格のコンサルが関わっていると判明すると、採択自体取り消される可能性も否定できません。

無資格者の代行業務は違法と明文化された以上、そのような事態になったとしても従わざるを得ません。

他士業との線引き

特に中小企業支援の現場では、診断士や税理士などが補助金申請に関与することが珍しくありません。
今後は、中小診断士、税理士、行政書士、弁理士…などは、それぞれの専門性を活かしつつ、業務範囲の線引きがされていくのではないでしょうか。

まとめ

今回の行政書士法改正の最大のポイントは、行政書士による「不服申立て代理業務」の範囲拡大にあります

これまでは、行政書士が不服申立ての代理を行うには、「事前にその書類を自ら作成している」ことが条件でした。しかし今回の改正により、

「行政書士が作成することができる官公署に提出する書類」

であれば、たとえ自分が作成していなくても代理できるようになります。

これは、行政書士にとって業務範囲の大幅な拡大を意味し、実務上も非常に大きな影響を与える内容です。

また、補助金申請書類については、今回の法改正で新たに独占業務とされたわけではありません。
従来から総務省の通知や国会答弁等で「行政書士の独占業務である」という見解が明確に示されており、今回の改正ではそれが明文化されたにすぎません。

しかしながら、補助金業務に関わる「闇コンサル」と呼ばれる無資格業者に対しては、今回の改正が一定の牽制効果を持つことが期待されます。

今後は、行政書士のみならず、中小企業診断士・税理士・弁理士といった各専門職が、それぞれの専門性を活かしながら、どこまでが自分たちの業務かという「線引き」がされていくのではないでしょうか。