行政書士・士業はAI時代にどう変わるか|大手採用抑制が示す「能力の価値基準」の転換

大手企業が新卒採用人数を見直し始めているという報道が増えています。

背景には景気や人口動態だけではなく、生成AIをはじめとするAI技術の急速な普及があります

AIは単なる業務効率化ツールではありません。
企業の組織構造そのものを変え、「どのような人材が必要なのか」という基準を変え始めています。

これは一部のIT企業だけの話ではなく、士業、コンサルティング、事務職、企画職など、いわゆるホワイトカラー全般に広がる変化です。

AI時代とは、技術革新の時代であると同時に、「能力の価値基準」が書き換わる時代なのかもしれません

AIの社会実装は「雇用削減」と切り離せない

AIは、文章作成、要約、議事録、調査、翻訳、資料作成 ——
これまで人が時間をかけて行っていた業務を、短時間で処理できるようになりました。

しかし、企業がAIに巨額投資を行う以上、その投資は何らかの形で回収されなければなりません。そこで起きるのが、「少人数で業務を回す」という構造変化です

AIによって仕事が完全になくなるとは限りません。ただ、同じ仕事をより少ない人数で処理できるようになることで、結果として採用人数や人員構成は変化していきます。
新卒採用の抑制は、その象徴的な動きともいえるでしょう。

特にAIと相性が良いのは、定型化された知的労働です。文章作成、情報処理、データ分析などの業務は、AIによって大きく効率化されやすい領域です。

これは「AIが人間を不要にする」というより、「人間に求められる役割が変わる」という変化なのだと思われます。

「士業」はなぜAIと競合しやすいのか

弁護士、税理士、公認会計士、司法書士、行政書士、など士業と呼ばれる仕事があります。法律や制度、手続きを扱う専門職で、法律、制度、手続き、論理整理、といった、「言語化・構造化しやすい知識」を扱っています
そして、これはAIが非常に得意な領域でもあります。実際、生成AIは、契約書のたたき台、要約、法令検索、書類整理、定型文作成、などを高精度で行うようになっています。

行政書士業務では?

たとえば行政書士の業務で見ると、補助金申請書・事業計画書の作成、許認可申請の書類整理、公募要領の要約といった作業は、AIが得意とする「構造化された言語処理」と重なります。実際、2026年の行政書士法改正で業務独占が明文化された補助金申請書類の作成も、AIツールを使えばたたき台は短時間で作れるようになっています。

今後、士業に必要なこと

問われるのは、「書類を作れるか」ではなく、「その事業の強みをどう読み取り、審査基準に沿って意味づけするか」という解釈力です。

もちろん、士業そのものが不要になるわけではありません。

しかし今後は、「制度を単に説明するだけ」「情報を整理するだけ」「書類を作るだけ」という価値は、相対的に低下していく可能性があります。

一方で重要になるのは、

  • 制度の背景を読む力
  • 政策意図を読み解く力
  • 経営判断につなげる力
  • 複数制度を横断して考える視点

など、「解釈」の部分かもしれません。

AIに代替されにくい仕事とは何か

一方で、AIに比較的強いと考えられている仕事もあります。

例えば、職人、治療家、教師、芸術家、料理人、など、人間的な経験や感覚が価値になる仕事です。こうした仕事には、「暗黙知」が多く含まれています。暗黙知とは、簡単には言語化できない知識のことです。AIは現在、この領域を完全には扱いきれていません。

だからこそ、「師業」はAI時代にも強いと言われることがあります。ただし、ここにも限界があります。

もし職人の動きや会話、判断基準が、データとして大量に蓄積されれば、それまで暗黙知だったものが「学習可能なデータ」へ変わっていきます。

つまり、「勘」が記録された瞬間、それはAIの学習対象になるということでもあります。

AIが学習できるのは「すでに記録された情報」だけ

AIは膨大なデータを分析できます。例えば、人気飲食店のレビューや売上データ、来店傾向を学習し、「売れる店の特徴」を分析することもできるでしょう。

しかし実際の現場では、「最近、客層の空気が変わってきた」「観光客の動きが少し違う」「“なんとなく”街の流れが変わっている」といった、数値になる前の変化があります。こうした「まだ整理されていない違和感」は、データベースには存在していません。

AIは、記録された過去を学習することは得意です。

しかし、「まだ名前の付いていない変化」を最初に感じ取るのは、依然として現場にいる人間なのかもしれません

「記録される前の一次情報」に触れられる人間が強くなる

AI時代に価値を持つのは、「情報量」だけではなくなるのかもしれません。

むしろ重要になるのは、現場に行くこと、人と直接会うこと、生の空気に触れること、つまり、「まだデータ化されていない一次情報」に接する力です。そして、その情報を、「誰がどの視点で、どう解釈し、何と結びつけるか」によって、新しい価値が生まれます。

AIは平均的な整理には非常に強い一方で、「意味を再編集する力」については、まだ人間の役割が大きく残されています。

AI時代に国が支援しようとしているのは「高付加価値」を生む企業|地域未来投資促進税制など

こうした変化は、実は政策面にも表れており、近年の産業政策では、単なる設備拡大ではなく、DX、高付加価値化、地域経済への波及、成長性、先進性、を重視する傾向が強まっています。

その代表例の一つが、「地域未来投資促進税制」です。これは、地域経済を牽引する事業として認定を受けた企業に対し、設備投資に関する税制優遇を行う制度で、機械装置、建物、ソフトウェアなどの投資について、「特別償却」または「税額控除」を受けられる可能性があります。制度上も、先進性、成長性、地域への波及効果、高付加価値化といった観点が重視されています。

興味深いのは、ここで求められているのが、単なる「効率化」だけではない点です。

AIによって単純な情報処理がコモディティ化していく中で、「何を生み出せるのか」「どのような価値を地域や市場に還元できるのか」という視点が、企業評価そのものになり始めています。

地域未来投資促進税制については、別コラムでも詳しく取り上げる予定です。

まとめ

AIによって、情報整理や定型業務の価値は急速に変化し始めています。行政書士をはじめとする士業にとっても、この変化は例外ではありません。これまで評価されてきた、記憶量、正確な事務処理、定型知識だけでは、差別化が難しくなる場面も増えていくでしょう。

その一方で、解釈力、文脈化能力、一次情報への接続、意味づけ、といった、「情報に新しい価値を与える力」の重要性は高まっていくのかもしれません。

AI時代とは、単に新しいツールが増える時代ではなく、「何を能力と呼ぶのか」その基準自体が変わる時代なのだと思われます。

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