行政書士は補助金申請で何ができて、何ができないのか|改正で変わったこと・変わらなかったこと
2026年1月1日、改正行政書士法が施行されました。
特に補助金申請サポート業務において、行政書士の業務範囲が依然として不明確なまま実務が行われているケースが多いようです
「事実として何がどこまで認められているのか」を、法律・省庁見解・システム規約という3つの層に分けて整理します。そして、改正で本当に変わったこと・変わらなかったことについて解説します。
問題を整理する3つの層
「行政書士は何ができるか」という議論が混乱しがちな理由は、次の3つの異なるルールが混同されているためです。
| 層 | 何を規定しているか | 具体例 |
| ① 行政書士法(法律) | 誰が何をしてよいか・してはいけないか | 書類作成の独占業務、第19条の禁止規定 |
| ② 省庁見解(行政解釈) | 法律の適用範囲についての行政の解釈 | 総務省グレーゾーン解消制度の回答 |
| ③ システム・公募要領(規約) | 各補助金制度の運用ルール | Jグランツの操作要件、公募要領の本人申請要件 |
この3つは独立したルールであり、「法律上は合法でも規約上はできない」「法律で禁止されていないからといって規約でも自由とは限らない」という状況が生じます。この整理を前提に読み進めてください。
行政書士法(法律)の層
改正前から定められていた独占業務
行政書士法第1条の2・第1条の3において、以下が行政書士の業務として定められています。
- 官公署に提出する書類の作成(補助金申請書、事業計画書等)
- 官公署への提出手続きの代理
- 書類作成・手続きに関する相談対応
今回の改正(第19条)で加わったこと
改正前の第19条には「報酬を得て」という文言はありましたが、「いかなる名目によるかを問わず」という文言がありませんでした。
【改正後・第19条】 行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受け「いかなる名目によるかを問わず」報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。
つまり今回の改正で追加されたのは「いかなる名目によるかを問わず」という部分です。「コンサル料」「顧問料」「システム利用料」など名目を変えても、実質的に申請書類を有償で作成する行為は違法であることが明文化されました。
独占業務そのものが新設されたわけではなく、抜け道の封鎖が主な趣旨です。
省庁見解(行政解釈)の層
法律の条文だけでは判断しにくい「どこまでが書類作成か」について、省庁が見解を示しています。ここが最もわかりにくい部分です。
総務省グレーゾーン解消制度の回答(2022年)
補助金申請サポートを行う事業者が「無資格で補助金申請支援を行ってよいか」と照会したのに対し、総務省は次のように回答しています。
【2022年2月・総務省回答の要旨】 官公署に提出する補助金申請書類の作成を報酬を得て業として行うには行政書士である必要がある。 ただし、申請書類の作成のために「収益計画・調査結果をまとめた資料を作成・提供」することは、行政書士法第1条の2に規定する書類の作成には該当しないと考えられる。
「計画の素材作成」は誰でもできる
省庁見解によれば、収益計画・市場分析など「計画の素材となる資料」の作成・提供は、行政書士法上の書類作成には該当しないため、誰でも有償で提供できます。同様に、公募要領に基づく改善案の提示や助言も「相談」として誰でも行えます。
この解釈が残っている以上、無資格コンサルが実態としてほぼ完成形まで関与しても「素材提供・助言のみ」という形にすることで、行政書士法の網をくぐれる余地が残っています。
システム・公募要領(規約)の層
補助金申請は本人作成・本人申請が原則
ほとんどの補助金では公募要領に「事業者本人が書類を作成し申請すること」が明記されています。これは行政書士法とは独立したルールであり、行政書士法上で何が認められているかにかかわらず、補助金の規約として事業者本人が主体的に申請することが求められます。
Jグランツの代理申請機能について
Jグランツでは2025年初頭に行政書士等による「代理入力機能」が追加されました。これは日本行政書士会連合会とデジタル庁が26回にわたる協議を重ねた末に実現したものです。
| 操作 | 誰が行えるか |
| 申請内容の代理入力(補助的な入力作業) | GビズIDで委任を受けた行政書士が代理可能 |
| 申請の提出(最終的な送信) | 事業者本人のみ。代理不可 |
「申請提出は本人のみ」という制約は、行政書士法の問題ではなく、補助金制度の趣旨(事業者が主体的に申請する)に基づくシステム上の仕様です。
改正で変わったこと・変わらなかったこと
改正で変わったこと
- 名目を変えた申請書類の有償作成が明確に違法になった(第19条の「いかなる名目によるかを問わず」)
- 特定行政書士の不服申立て代理範囲が拡大した(許認可申請等が対象。補助金申請においては事業者本人のみが申請者であるため、この規定は実質的に適用されない)
- 行政書士の社会的使命が法律に明文化された
- 違反行為への両罰規定が整備され、法人への罰則も強化された
変わらなかったこと
- 補助金申請における「本人作成・本人申請が原則」という規約上のルールは変わっていない
- 「計画の素材作成・助言」は誰でもできるという省庁見解は変わっていない
- 「書類作成」と「素材作成」の境界は依然として曖昧
- 取り締まりは行政の運用次第で、摘発事例はほぼない
- Jグランツの送信が本人操作必須という制約も、改正とは無関係にシステム仕様として継続
なぜ「変わっていない」と感じるか
今回の改正の本質は「新しい独占業務の創設」ではなく「名目変更による抜け道の封鎖」でした。しかし省庁見解で「素材作成は独占業務外」という解釈が残り、補助金においては規約上の本人作成原則もある以上、実務上の状況は大きく変わっていません。法的根拠の整備は進みましたが、実務への浸透はこれからです。
3層で整理した「できること・できないこと」
| 業務内容 | 行政書士法 | 省庁見解 | 補助金規約 |
| 補助金申請書・事業計画書の作成 | 独占業務(許認可系) | 独占業務に該当 | 本人作成が原則 |
| 収益計画・分析資料などの素材作成・提供 | 誰でも可 | 書類作成に非該当 | 制限なし |
| 公募要領に基づく助言・添削指導 | 誰でも可 | 相談として適法 | 制限なし |
| Jグランツへの代理入力(入力補助) | 代理業務として可 | 独占業務に該当 | 委任手続き後に可。内容確認は本人 |
| Jグランツの申請送信(最終提出) | 独占業務でない | 本人申請が趣旨 | 本人操作必須 |
| 雇用調整助成金等の申請 | 社労士の独占業務 | 行政書士は不可 | ― |
まとめ ─ それでも行政書士に依頼する意味
補助金申請における行政書士の独占業務は、法律上は明確でも実態としては曖昧な部分が残っています。それでも行政書士に依頼する意味は、次の点にあります。
① 伴走サポートの質と責任
事業者が自ら作成する過程で、行政書士が適法な範囲でサポートします。公募要領の解釈、申請の流れの整理、Jグランツの代理入力補助など、事業者の負担を減らしながら申請の質を高めることができます。
② 採択後のリスク管理
補助金は採択されて終わりではありません。実績報告・確認調査があり、申請の過程で問題があった場合はリスクを負うのは事業者です。適法なサポートを選ぶことが、事業者自身のリスク管理につながります。
③ 許認可申請との組み合わせ
補助金を活用した設備投資・事業展開に伴い、許認可申請が必要になるケースがあります。補助金の申請サポートと許認可申請を一体で対応できるのは、行政書士ならではの強みです。
「独占業務だから行政書士に頼むべき」という主張よりも、「補助金申請の原則を守りながら、適法・適切なサポートを提供できる」という点が、行政書士に依頼する実質的な意味です。

