富裕層の資産保全は「仕組みの承継」で決まる|出光興産に学ぶレガシー
近年、中東情勢をはじめとする地政学リスクの緊迫化が、世界経済に大きな影響を与えています。物流の要衝であるホルムズ海峡の緊張が高まるなか、先日、日本籍タンカー「出光丸」が同海峡を無事に通過したというニュースが報じられました。
日本は現在も原油輸入の約9割を中東地域に依存しており、その多くがホルムズ海峡を経由しています。そのため、この海峡の安定は、日本経済にとって生命線ともいえる存在です。
そうした緊迫した状況下で、なぜ日本のタンカーは航行できたのか。その背景を探ると、現代の外交努力だけでは語れない、70年以上前に築かれた「歴史の遺産」の存在が見えてきます。
70年の時を超えて機能した「信用」というセーフティネット
複数の要因がもたらした安全航行
1953年、英国との紛争下で経済封鎖されていたイランへ、英国海軍の監視をかいくぐって急行し、石油を直接買い付けた日本船がありました。映画や小説でも広く知られる、出光興産の「日章丸事件」です。当時の創業者・出光佐三氏が示した決断とイランへの敬意は、70年を経た今もなお、現地の人々の記憶に刻まれています。
もちろん、今回の出光丸が無事に海峡を通過できた理由は、この歴史的事件「だけ」がすべてではありません。安倍元首相が在任中に築き上げたイランとの強固な信頼関係や、国際社会において一貫して平和国家としてのポジションを守り続けてきた日本ブランドなど、複合的な外交の積み重ねがあったことは紛れもない事実です。
しかし、緊迫する海上において「どのタンカーを通すか」という緊迫した局面を迎えたとき、70年前の「日章丸の記憶」が決定的な一打となった可能性は極めて高いと言えます。先人が遺した「信用」という名の偉大なレガシー(遺産)が、時を超え、現代を生きる子孫(日本)を救う最後のセーフティネットになったのです。
一国の地政学リスクと、富裕層の資産防衛の共通点
現在の日本のエネルギー供給構造を見ると、原油輸入の中東依存度は90%以上に達し、その大半がホルムズ海峡を通過しているという極めて高いリスクを抱えています。この緊迫した数値を前に、先人の遺産がいかに現実の危機を救っているかが分かります。
そしてこの構造は、不確実な時代を生き抜こうとする「富裕層における一族の資産防衛・次世代戦略」のあり方に対しても、全く同じことが言えるのです。
富裕層の資産保全は「資産移転」ではなく「仕組みの承継」で決まる
過去最高水準に達する日本の富裕層マーケット
現在、日本の富裕層マーケットは過去最高水準に達しています。野村総合研究所の推計(2023年発表データ)によると、純金融資産1億円以上5億円未満の「富裕層」および5億円以上の「超富裕層」の合計は約165.4万世帯、その純金融資産総額は約469兆円に上り、資産の規模そのものは拡大を続けています。
しかし、これらの莫大な資産が次世代、その次の世代へと無事に引き継がれるかといえば、歴史的なデータは極めて厳しい現実を示しています。
資産はなぜ「3世代」で失われるのか
米国のファミリービジネス分野における有名な統計では、「約70%が2世代目までに資産・事業を失い、約90%が3世代目までに維持できなくなる」という数字が広く引用されます。富の承継が失敗する主因は、実は「過度な相続税」だけではありません。真の理由は以下の3点に集約されます。
- 価値観の不一致: 後継者間・親族間における理念のズレ
- 投資方針の不一致: 世代間におけるリスク許容度のズレ
- 意思決定の不在: 有事におけるリーダーシップの欠如
富裕層はどうしても、目先の「節税」「相続税評価の圧縮」「不動産移転」といったテクニカルな手法(資産移転)に意識が向きがちです。しかし、実際に一族の富が崩壊する真因は、税金ではなく「家族内のガバナンス不全」や「後継者教育の不足」にあります。
欧米の老舗財閥に学ぶ「ファミリーガバナンス」という防衛策
ロックフェラー家とリー・クアンユー家の戦略
では、資産を3世代、4世代と永続させるために、世界の富裕層はどのような「仕組み」を構築しているのでしょうか。
- ロックフェラー家(米国): 専門的な資産管理組織である「ファミリーオフィス」を立ち上げ、100年以上にわたり一族の資産と影響力を維持。
- リー・クアンユー家(シンガポール): 単なる金銭的資産の伝承にとどまらず、次世代への最高峰の教育と、国際的なエリートネットワークの継承を最重視。
精神論を「客観的なルール」へ昇華させる
欧州の老舗財閥や富裕層の間では、一族の理念や行動規範を言語化した「家族憲章(ファミリーコンスティテューション)」の導入や、一族の意思決定を行う「家族評議会(ファミリーカウンシル)」の設置といった「ファミリーガバナンス」の構築が一般的です。
一族の哲学を単なる精神論に終わらせず、世代を超えた資産管理の客観的なルールへと昇華させて初めて、遺産は有事の際にもブレない強固な防衛力となります。
出光丸が、過去の目に見えない外交遺産や多角的な信頼関係という「多層的なセーフティネット」によって現代の危機を乗り越えたように、一族の富を守るためにも、属人的な判断に頼らない、永続的な管理プラットフォームの構築が求められる時代に来ているのです。
今、次世代のために仕込むべきグランドデザイン
出光佐三氏が遺した偉大な信用が、70年後の現代日本を救うセーフティネットになったように、現役の資産家・経営者である皆様が「今、どのような仕組みとガバナンスを仕込むか」が、50年後、70年後のファミリーの命運を左右します。
目先の部分的な節税対策に終始するのではなく、一族が次の時代、その次の時代へと繁栄を紡いでいくための「グランドデザイン」を今から設計すること。それこそが、富裕層に課された真の次世代戦略と言えるでしょう。
不確実な時代を生き抜くための強固な基盤づくりには、国際税務の諸リスクを回避する高度な実務知識と、ファミリーガバナンスの構築に伴走できるグローバルなネットワークを持ったパートナーの存在が不可欠です。未来の危機から一族を救うための第一歩を、今から踏み出してみてはいかがでしょうか。
本連載は以下の、専門家および資産運用・ファイナンシャルアドバイザリー会社の情報提供を基に作成しています。
業務提携パートナーのご紹介
三浦 龍太郎(Ron Miura Ryutaro)
両親は日本人のシンガポール国民/資産保全コンサルタント
日本の公立学校卒業後に米国および英国での留学・大学院修了後、海外金融業界に進み、現在はシンガポールを拠点に14年以上にわたり、日本人およびアジア在住の顧客を中心に資産運用・国際資産管理の分野に従事。
海外金融機関の活用、クロスボーダー資産管理、海外居住者向けの資産戦略など、実務経験に基づく情報を日本語ニュースレターや各種メディアを通じて発信している。
また、シンガポール移住や現地生活・金融環境に関する実務的なアドバイスも提供している。
詳細なキャリアはLinkedInでもご覧いただけます。
🔗 LinkedInプロフィールを見る →会社概要
ZICO Asset Management Pte. Ltd. は、シンガポールを拠点に活動する資産運用・ファイナンシャルアドバイザリー会社です。
裕福な個人投資家、起業家、ファミリーオフィスを中心に、プライベートバンキングと金融資産の管理・運用助言を提供しています。
Zico Holdingsは、MAS(シンガポール金融管理局)による資産運用ライセンスを保有し、投資商品や有価証券、デリバティブなど複数の金融商品を対象に法令に則した助言・運用サービスを展開しています。
ZICO Asset Management は、ZICO Holdings の一事業体として、ASEAN地域におけるクロスボーダーの資産管理・ポートフォリオ戦略立案を支援し、顧客の長期的な資産形成をサポートしています。

