【第1回】なぜ日本集中はリスクになりつつあるのか?統計が示す「分散」の真価
資産保全において、最も避けなければならないのは「最悪のシナリオ」に対する備えを欠くことです。
かつて、日本の富裕層にとって国内資産100%は「安全な選択」でした。しかし、近年のマクロ経済データは、その常識がすでに通用しなくなっていることを示しています。
5年前の教訓|パンデミック時の「分散」が分けた明暗
2020年3月、世界を襲ったパンデミック。この未曾有の危機において、資産を日本国内に集中させていた場合と、グローバルに分散させていた場合で、どれほどの差が出たのかを振り返ってみましょう。
| 投資対象(2020年3月末時点) | 2020年末までの騰落率 (円建て近似) | 備考 |
| 日本株(TOPIX) | +4.8% | 低迷が続き、回復に時間を要した |
| 米国株(S&P 500) | +16.3% | テクノロジー企業の成長が牽引 |
| 米国ソフトウェア(QQQ等) | +40%超 | 非対面需要により構造的成長が加速 |
| グローバル分散(60/40) | +12%前後 | 債券との組み合わせでボラティリティを抑制 |
※S&P Dow Jones Indices / JP Morgan Asset Management 報告書より推計
2020年末の数字だけを見れば、日本株もプラスに転じています。しかし、注目すべきは世界経済との回復スピードの乖離です。
米国のソフトウェア産業が非対面需要を追い風に数ヶ月でV字回復を遂げた一方、物理的なサプライチェーンに依存する日本の製造業は、正常化までに長い時間を要しました。このタイムラグこそが、単一市場に依存するリスクの正体です。
「製造業」と「ソフトウェア産業」の構造的な差
パンデミックが各産業の収益構造(ビジネスモデル)を浮き彫りにしました。
- 物理的制約の有無: 日本の製造業は、工場の稼働停止、物流(サプライチェーン)の寸断、対面営業の制限により、物理的にビジネスがストップしました。
- スケーラビリティ(拡張性): 一方で、米国のBig Techを中心としたソフトウェア産業は、ロックダウンによってむしろ「需要が急増」しました。一度開発したソフトウェアは、物理的な移動を伴わず、コストを抑えたまま世界中に一瞬で配信できます。
- 研究開発と付加価値: 経済協力開発機構(OECD)や各国の統計データを見ても、過去20年の「付加価値(利益率)」の伸びにおいて、ソフトウェア産業は製造業を圧倒し続けています。
分散投資シミュレーションの具体値(2020年〜2022年)
具体的に、パンデミック発生直前から2年間の「日本集中」vs「グローバル分散」の推移をデータ(MSCI指数ベース)で追ってみましょう。
| ポートフォリオ構成 | 2020年3月(最大下落時) | 2022年12月末(円建て評価) |
| ①日本集中(TOPIX 100%) | 約 -25% | 約 +18% |
| ②グローバル分散(世界株 50% / 米国株 50%) | 約 -20% | 約 +55% |
※MSCI World Index / Investing.com 通貨変換データより
なぜこれほどの差が出るのか?
最大の要因は為替(円安)です。
2022年から加速した円安局面において、外貨資産を持っていた投資家(②)は、資産の「価格上昇」と「為替差益」の両方を享受しました。一方、日本集中(①)の場合、額面は18%増えていても、世界的な物価高(インフレ)や円安による輸入コスト増を考慮した「実質的な資産価値」では、②に圧倒的な差をつけられています。
現在、日本が抱える「バブル」と「目減り」の二重苦
さらに現在、日本の富裕層が注視すべき最新データがあります。
1. 不動産価格の「実体」との乖離
UBSグローバル・リアルエステート・バブル指数(2025年版)によると、東京の住宅価格は1.6というスコアを記録し、「バブルリスク」領域にあると評価されました。これは、現地の所得水準や賃料の伸びを大幅に超えて価格が上昇していることを示しています。低金利を背景にした資産インフレは、出口戦略において大きなボラティリティ(変動)リスクを孕んでいます。
2. 通貨の「購買力」という沈む船
2020年当時に比べ、円の対ドル価値は約40%近く下落しました。日本国内で「円」という数字だけを見ていると気づきにくいですが、世界基準で見れば、日本に資産を置いているだけで、外貨ベースの購買力は半分近くに目減りしているのです。
シミュレーション|資産1億円をどう置いていたか
仮に2020年1月に1億円を保有していたとしましょう。
パターンA(日本集中)
現預金と国内不動産・株式で運用。2025年、額面は微増しても、ドル建て価値は約30〜40%減少。
パターンB(グローバル分散)
米国テクノロジー株、シンガポール配当株、外貨建て債券に30%ずつ分散。2025年、額面・実質価値ともに30%以上のプラス。
結論|資産保全とは「構造的変化」への適応である
「日本集中」のリスクとは、日本という国への信頼の問題ではなく、「単一の経済圏、単一の産業構造、単一の通貨」に全財産を賭けているというポートフォリオの脆弱性にあります。
富裕層が次世代にレガシーを遺すためには、感情的な愛国心とは切り離された、データに基づく冷徹な資産配分(アセットアロケーション)が必要です。致命的な失敗を避ける仕組みを持つこと。それこそが、不確実な時代における資産保全の本質なのです。
さらに深く知るための参考記事(LinkedIn連載より)
本記事で触れた「不確実性への備え」や「構造的変化の捉え方」について、より詳細な論考をLinkedInにて公開しています。あわせてご参照ください。
唯一の確実性は「不確実性」であるという前提に立ち、地政学的な分断が資産運用に与える影響を紐解きます。
為替の変動といった「ノイズ」ではなく、数十年単位で続く「構造的変化」を見極めるための視点を解説しています。
資産を単に持つだけでなく、多国籍な視点で「どこに、どのような形で置くべきか」という資産保全の根幹に触れています。
次回予告:外貨を保有するという選択肢の意味
なぜ今、あえて外貨を持つ必要があるのか?為替差益を超えた、本当の「守りの戦略」について掘り下げます。
本連載は以下の、専門家および資産運用・ファイナンシャルアドバイザリー会社の情報提供を基に作成しています。
業務提携パートナーのご紹介
三浦 龍太郎(Ron Miura Ryutaro)
両親は日本人のシンガポール国民/資産保全コンサルタント
日本の公立学校卒業後に米国および英国での留学・大学院修了後、海外金融業界に進み、現在はシンガポールを拠点に14年以上にわたり、日本人およびアジア在住の顧客を中心に資産運用・国際資産管理の分野に従事。
海外金融機関の活用、クロスボーダー資産管理、海外居住者向けの資産戦略など、実務経験に基づく情報を日本語ニュースレターや各種メディアを通じて発信している。
また、シンガポール移住や現地生活・金融環境に関する実務的なアドバイスも提供している。
詳細なキャリアはLinkedInでもご覧いただけます。
🔗 LinkedInプロフィールを見る →会社概要
ZICO Asset Management Pte. Ltd. は、シンガポールを拠点に活動する資産運用・ファイナンシャルアドバイザリー会社です。
裕福な個人投資家、起業家、ファミリーオフィスを中心に、プライベートバンキングと金融資産の管理・運用助言を提供しています。
Zico Holdingsは、MAS(シンガポール金融管理局)による資産運用ライセンスを保有し、投資商品や有価証券、デリバティブなど複数の金融商品を対象に法令に則した助言・運用サービスを展開しています。
ZICO Asset Management は、ZICO Holdings の一事業体として、ASEAN地域におけるクロスボーダーの資産管理・ポートフォリオ戦略立案を支援し、顧客の長期的な資産形成をサポートしています。

