医療系補助金の方向性を読む― 経産省概算要求から見える再生医療・創薬分野の重点化 ―

医療・バイオ分野に関する補助金研究開発支援について、近年注目が集まっています。

背景には、国の成長戦略の中で医療・ヘルスケア分野が引き続き重要な位置づけにあることがあると考えられます。


本コラムでは、概算要求の資料をもとに、前年と今年度の資料を比較し医療・バイオ分野の中でもどの領域が重点化されているのかを整理します。

特に、再生医療・遺伝子治療、創薬分野の予算の動きを中心に、現在の政策的な関心を読み解きます。

いまはどの段階か ― 概算要求という資料の位置づけ

現在(2025年12月時点)は、令和8年度当初予算がまだ成立していない段階です。

各省庁はすでに概算要求を提出しており、これをもとに年末から年明けにかけて当初予算案が取りまとめられ、国会での審議を経て成立する流れとなります。

概算要求・補正予算・当初予算の違い

概算要求とは

各省庁が来年度に向けて、政策の方向性や重点分野を示す段階の資料
金額は「要求額」であり、最終確定ではない

補正予算とは

年度途中に編成される追加予算
成長投資や危機管理投資として、特定分野に集中的な資金が投入されることが多く、基金造成や国庫債務負担行為が用いられるケースもある。

当初予算とは

概算要求や補正予算の内容を踏まえ、国会審議を経て確定する正式な予算

現在の予算編成の流れ

現在は、概算要求はすでに公表され、補正予算案も閣議決定済みですが、令和8年度当初予算はまだ成立していない段階です。

経済産業省概算要求に見る医療・バイオ分野の全体像

医療系の補助金の傾向を経済産業省の概算要求で見ていきましょう。

医療・バイオ分野は「バイオ・健康・医療分野」として整理されています。

ここでは、研究開発にとどまらず、製造設備投資や人材育成、スタートアップ支援、国際展開まで含めた支援が掲げられている点が特徴的です。

単に新しい技術を生み出すだけでなく、医療技術を産業として育て、社会実装につなげることが意識されていることが読み取れます

特に再生医療や遺伝子治療、医療機器といった分野は、継続して重点項目として位置づけられます。

▶ 令和8年度 経済産業省関係 概算要求等概要

前年との比較で見える予算の変化

ここでは、経済産業省の概算要求等概要を前年と今年度で比較し、金額の変化が分かりやすい主要事業を整理します。

再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業

  • 前年(昨年度概算要求):39億円
  • 今年度概算要求:50億円

前年と比べて比較的大きな増額となっています
事業名に「産業化に向けた」とあるとおり、研究段階にとどまらず、実用化・事業化を見据えた取り組みが政策的に重視されていることが読み取れます。

次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業

  • 前年(昨年度概算要求):58億円
  • 今年度概算要求:61億円

大幅な増額ではないものの、安定的な増額が続いています。
創薬分野については、継続的な研究開発支援を通じて基盤を強化していく姿勢が示されていると考えられます。

予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発事業

  • 前年(昨年度概算要求):同名事業の記載なし
  • 今年度概算要求:13億円

今年度の概算要求では、「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発事業」が新たに明示されました

令和7年度の概算要求資料では、同名の事業は確認できず、予防や健康づくりに関する研究開発は、他の事業の一部や「等」に含まれる形で扱われていた可能性があります。

なお、今年度の資料では【13億円(13億円)】と記載されています。

これは「前年にも同名の事業が存在していた」ことを意味するものではありません。概算要求においては、既存事業を整理・再構成した場合でも、前年度予算額が括弧書きで示されることがあります

金額そのものは再生医療や創薬分野と比べて大きいものではありませんが、あえて「予防・健康づくり」「社会実装」という言葉を事業名として前面に出した点は注目されます。

研究成果を医療現場や地域、日常の健康づくりにどう結びつけるかといった視点が、政策的に意識され始めていると考えられます。

再生医療・遺伝子治療分野が強調される背景

今回の比較で特に目を引くのは、再生医療・遺伝子治療分野に関する事業の増額です

この事業名には「産業化に向けた」という文言が含まれており、研究段階から一歩進んだ事業展開を意識していることが分かります。

再生医療や遺伝子治療は、医療技術としての期待だけでなく、製造技術や品質管理、供給体制の構築など、産業としての基盤整備が不可欠な分野です。

こうした特性を踏まえ、研究開発とあわせて産業基盤の整備を進めようとする政策意図が、予算要求にも反映されていると考えられます。

成長戦略本部との関係から見る医療・バイオ分野の位置づけ

2025年11月には、政府が「日本成長戦略本部」を設置し、複数年度で官民投資を進める重点分野を明らかにしました。

重点投資対象には、AI・半導体、防衛産業などと並び、「合成生物学・バイオ」「創薬・先端医療」が含まれています。

この成長戦略本部は、個別の補助金制度を直接所管するものではありませんが、各省庁の予算編成や政策立案に大きな影響を与える位置づけです。

医療・バイオ分野は、単年度の研究支援にとどまらず、複数年度での研究開発、製造、社会実装を通じて産業として育成していく対象とされており、今後も補正予算や基金を通じた支援が続く可能性が高い分野といえます。

参考コラム

「成長戦略本部」設置で変わる?重点投資が補助金政策に与える影響

概算要求の数字をどう読み、どう備えるか

概算要求に記載された金額は確定ではありません。今後の予算編成過程や国会審議を経て、当初予算として成立する際に修正が入る可能性はあります。

補正予算において基金造成や債務負担行為が措置されることで、概算要求以上の規模で支援が行われるケースもあります

そのため、医療・バイオ分野の補助金や研究開発支援を検討する事業者にとっては、当初予算だけでなく、補正予算を含めた全体の流れを把握しておくことが重要です。

概算要求は「今後どの分野に政策的な追い風が吹きやすいか」を考えるための資料として位置づけ、早めに情報収集を進めましょう。

まとめ

経済産業省の概算要求を前年と比較すると、医療・バイオ分野の中でも再生医療・遺伝子治療、創薬分野が引き続き重視されていることが分かります。

特に再生医療・遺伝子治療分野では、産業化を意識した事業に対して予算要求が増加しており、政策的な関心の高さがうかがえます。

今後は、当初予算の成立や補正予算の内容を踏まえながら、具体的な公募や支援制度が示されていくことになります。

医療系の補助金や研究開発支援を検討する際には、予算編成全体の流れを確認していくことが重要です。