最低賃金の引き上げと補助金制度の関係とは?賃上げ要件の背景をわかりやすく解説
近年、多くの補助金制度において「賃上げ要件」や「地域最低賃金+30円以上」といった記載が見られるようになりました。

(ものづくり補助金チラシより)
これは単なるルールではなく、日本の賃金政策と中小企業支援政策が“連動”して設計されていることの現れです。
本記事では、なぜ補助金に賃上げ要件が盛り込まれるようになったのか?その背景と制度的意義をわかりやすく解説します。

そもそも最低賃金とは?
最低賃金とは、労働者が生活を維持するために、雇用主が最低限支払わなければならない時給を定めた制度で、厚生労働省と各地方労働局が定めています。
- 全国平均は2024年度に【時給1,000円】を超え、今後も継続的な引上げが議論されています。
- 政府は「年3%程度の引き上げ」を目標とし、“成長と分配の好循環”を政策の柱に据えています。
なぜ補助金に“賃上げ要件”が?
かつて補助金制度は、「企業の設備投資や新事業」を後押しすることが主目的でした。
しかし現在は、それだけでは不十分とされ、
- 設備投資だけでなく、“人への投資”を促す
- 企業に持続的な成長と分配の両立を求める
という考えのもと、補助金と賃金政策をセットで進める設計になっています。
政府の狙い
賃上げを「義務」ではなく「条件」として仕組化
補助金に賃上げ要件を取り入れることで、
- 中小企業にとっての賃上げインセンティブになる
- 公的支援を受ける企業に“社会的責任”を求める
- 補助金を「公共投資」としての正当性を高める
といった狙いがあります。
単に「ばらまき」と批判されがちな補助金に、“対価としての労働者還元”という要素が加わったともいえます。
賃上げ要件を満たさなかったらどうなる?(ものづくり補助金の場合)
ものづくり補助金の基本要件に「事業所内最低賃金水準要件」があります。
具体的には以下のように明記されています。
基本要件③:事業所内最低賃金水準要件 【目標値未達の場合、補助金返還義務あり】
・補助事業終了後 3~5 年の事業計画期間において、事業所内最低賃金(本補助事業を実施する事業所内で最も低い賃金)を、毎年、事業実施都道府県における最低賃金より 30 円(以下「事業所内最低賃金基準値」という。)以上高い水準にすること。
・具体的には、申請者自身で事業所内最低賃金基準値以上の目標値(以下「事業所内最低賃金目標値」という。)を設定し、交付申請時までに従業員等に対して表明のうえ、毎年、当該事業所内最低賃金目標値を達成することが必要です。
・達成できなかった場合、補助金返還を求めます。また、従業員等に対して設定した目標値の表明がされていなかった場合、交付決定取消し、補助金返還を求めます。
3~5年の事業計画期間中、毎年3月末時点で要件達成しているかを判定されます。
そのため、事業計画段階で「実現可能な賃上げ幅」を設定することが極めて重要です。
具体的な事業場内最低賃金計画例(ものづくり補助金)
ものづくり補助金において、2025年度に補助事業が完了したとします。(東京都内の事業所の場合)
3年の事業計画の場合、具体的に事業場内最低賃金計画はどうなるのでしょう。
この場合、事業計画1年目は2025年度で、基準年度はその直前の事業年度2024年度となります。
2024年に発表されている東京都の最低賃金は、1,163円です。
+30円を達成しなければならないので、1,193円以上を毎年達成する計画を立てます。
例えば、次のような計画を立てればOKです。

2026年3月末 1,200円 (1,193円以上にする)
2027年3月末 1,200円
2028年3月末 1,200円
ものづくり補助金についてはこちらをご覧ください。
まとめ
補助金制度における賃上げ要件は、単なる義務ではなく、国の成長戦略と一体化した仕組みです。
- 最低賃金引上げは国の方針であり、避けられない潮流
- 補助金はその実現を後押しする“政策ツール”として活用されている
- 賃上げ未達成にはペナルティがあるため、事業計画は慎重に
- 生産性向上策と併せて、現実的な賃上げを目指すことが重要